推しに告白(嘘)されまして。
4.もっと一緒に
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沢村くんも合流して本格的に始まった勉強会。
最初は話を全く聞いていない千晴に、どうなることやら、と思っていた。
しかし、そんな私の不安とは裏腹に、案外千晴は真面目に勉強に取り組み、わからないところがあれば、何度も何度も私に質問してきた。
ただわからないと言う割には、説明を聞けばすぐに理解し、問題を解いていたので、本当にわからなかったのかは少々疑わしいところもある。
わざとわからないフリをしていた可能性もあるが、そこには目をつむることにした。
真面目に勉強に取り組む姿勢、それが大事なのだ。
そして一緒に勉強していた沢村くんも、千晴と同じく数学のテスト勉強をしていた。
真剣な表情で机に向かう初めて見る推しの横顔。
クラスが違うので普段なら絶対見られない貴重な一面に、何度も顔が緩みそうになったことは言うまでもない。
沢村くんにときめく胸を抑えつつも、千晴に勉強を教えながら、その合間を縫って、私も自分の勉強を進めた。
そんな中、沢村くんはしばしば手を止めて、私にわからない箇所を尋ねてきた。
それに答えるたびに「ありがとう、鉄崎さん」と照れくさそうに笑う沢村くんに、何度心臓が爆発しかけたことか。
推しの照れ笑いでこの命を散らせるなんて本望すぎる。
千晴と沢村くんの勉強を見ながらも、私も勉強をする。
この流れで勉強すること2時間。
あっという間に下校時刻となったので、私たちは一旦勉強を中断し、帰路につくこととなった。
校庭の奥、街の向こう側に太陽がゆっくりと沈んでいく。
ほんの数時間前までは青かった空も、いつの間にかオレンジ色に染められており、確かに時が流れたことを告げていた。
私、沢村くん、千晴の3人は、私を挟んで横に並び、共に校門を目指して歩いていた。
「鉄崎さん、今日はありがとう。すごく捗ったよ」
先ほどまでしていた勉強会を思い返していると、私の右隣にいた沢村くんが笑顔で私に話しかけてきた。
夕日のオレンジ色を浴びる推しはなんて眩しいのだろう。物理的な意味でも、存在的な意味でもどちらでも眩しい。
「いや、こちらこそありがとう。教えることって自分の復習にもなるし、沢村くんのおかげでいい復習ができたよ」
推しが二つの意味で眩しすぎて、私は思わず目を細めながらも、にっこりと笑った。