推しに告白(嘘)されまして。
2.約束の練習試合
side柚子
『鉄崎さん、週末空いてる?もし空いてたら、市営体育館で練習試合があるから観に来て欲しいんだけど…』
とある日の帰り道。
遠慮がちに私の様子を伺いながらも、そう言った沢村くんに、私は食い気味で、「もちろん!」と答えた。
そして現在。
私は沢村くんとの約束を守る為に、雪乃を誘い、雪乃と共に市営体育館へとやって来ていた。
沢村くんの練習試合を観るために。
「推しのバスケ…。ガチバスケ…」
体育館内の廊下をぼんやりと見つめる私にふわふわとした感覚が込み上げる。
今までこっそりとバスケをする沢村くんを観てきたが、きちんとしたバスケの試合を観るのはこれが初めてだ。
普段とは違い、勝ち負けにこだわる大事な試合。
練習とはいえ、いつも見ているものとは、明らかに違うのだろう。
これからそんな真剣な試合に挑む沢村くんを観られるなんて。
真剣な試合では一体どんな姿を沢村くんは見せるのだろうか。
汗を流しながらも、必死に声を張り上げて、コート内を縦横無尽に走り回り、試合を支配するその姿。
揺れる綺麗な黒髪から覗く、瞳は真剣そのもので…。
「…へへ」
想像しただけで、笑みが溢れてしまう。
急にだらしなく笑い出した私に、雪乃は「怖いわ」と無表情のまま、軽くツッコミを入れてきた。
「…どうせ、王子のことでそんな顔になってるんでしょ?」
「…え、やっぱ、わかる?」
「うん。顔に思いっきり書いてある」
呆れたようにこちらを見る雪乃に、私は、はは、と渇いた笑いを漏らす。
雪乃が相手だとどうしても気が緩み、思ったことがつい顔に出てしまう。
一応他の人の目もあるので、泣く子も黙る、鷹野高校、風紀委員長として気を引き締めなくては。