推しに告白(嘘)されまして。
その時だった。
「鉄崎さん!」
大きな扉の向こう側。
コート内からとんでもなく素晴らしい声の持ち主が、何と私を呼び止めたのだ。
もちろんその声の持ち主とは、私の推し、沢村くんのことである。
さささ、沢村くん!?
突然のことで内心とても焦ったが、私は何とか平静を装い、声の方へと振り向いた。
すると、そこには、うっすらと額に汗を光らせながら、爽やかな笑顔で、こちらに走ってきてくれている沢村くんの姿があった。
沢村くんがあまりにも尊すぎて、何とか装った平静が崩れ、頬が思わず熱を帯びてしまう。
私の為にわざわざ練習をやめて、こちらに駆け寄って来てくれるだなんて。
笑顔が眩しすぎて直視できない。
「来てくれてありがとう、鉄崎さん」
「…いや、こちらこそ誘ってくれてありがとう」
笑顔の沢村くんに、こちらも至って冷静に笑顔で応え、「これ…」と、手にある差し入れを差し出す。
「ゼリー買ってきたからあとでみんなで食べて」
「え。わざわざ?なんか気を使わせてごめん。ありがとう」
一瞬きょとんとして、すぐに申し訳なさそうに眉を下げる沢村くんに、胸がきゅーんと締め付けられた。
可愛い。私よりもずっと大きいのに子犬みたいだ。
こんな顔されたらもっと貢ぎたくなる。
「応援してるよ。頑張ってね、沢村くん」
「うん。ありがとう、鉄崎さん」
キュンキュンと私の胸を締め付けるこのトキメキに耐えながら、私は沢村くんにいつもと変わらない笑みを浮かべた。
そんな私に沢村くんは爽やかな笑みを浮かべ、お礼を言ってくれたのだった。
ああ、推し、尊い。