推しに告白(嘘)されまして。




その時だった。



「鉄崎さん!」



大きな扉の向こう側。
コート内からとんでもなく素晴らしい声の持ち主が、何と私を呼び止めたのだ。
もちろんその声の持ち主とは、私の推し、沢村くんのことである。

さささ、沢村くん!?

突然のことで内心とても焦ったが、私は何とか平静を装い、声の方へと振り向いた。
すると、そこには、うっすらと額に汗を光らせながら、爽やかな笑顔で、こちらに走ってきてくれている沢村くんの姿があった。

沢村くんがあまりにも尊すぎて、何とか装った平静が崩れ、頬が思わず熱を帯びてしまう。

私の為にわざわざ練習をやめて、こちらに駆け寄って来てくれるだなんて。
笑顔が眩しすぎて直視できない。



「来てくれてありがとう、鉄崎さん」

「…いや、こちらこそ誘ってくれてありがとう」



笑顔の沢村くんに、こちらも至って冷静に笑顔で応え、「これ…」と、手にある差し入れを差し出す。



「ゼリー買ってきたからあとでみんなで食べて」

「え。わざわざ?なんか気を使わせてごめん。ありがとう」



一瞬きょとんとして、すぐに申し訳なさそうに眉を下げる沢村くんに、胸がきゅーんと締め付けられた。

可愛い。私よりもずっと大きいのに子犬みたいだ。
こんな顔されたらもっと貢ぎたくなる。



「応援してるよ。頑張ってね、沢村くん」

「うん。ありがとう、鉄崎さん」



キュンキュンと私の胸を締め付けるこのトキメキに耐えながら、私は沢村くんにいつもと変わらない笑みを浮かべた。
そんな私に沢村くんは爽やかな笑みを浮かべ、お礼を言ってくれたのだった。

ああ、推し、尊い。



< 97 / 379 >

この作品をシェア

pagetop