野いちご源氏物語 三一 真木柱(まきばしら)
明るい月に(きよ)らかなお顔がたいそう美しく照らされて、源氏(げんじ)(きみ)にそっくりでいらっしゃる。
<あのようにお美しい方が他にもいらっしゃったのだ>
尚侍(ないしのかみ)様は思わず見とれてしまわれる。
源氏の君から下心(したごころ)を抜き去ったような方だから、ただただうっとりなさる。

(みかど)はおやさしい口調(くちょう)で、想定外のご結婚のことをお(うら)みになった。
尚侍様は何もおっしゃれない。
お顔を隠してじっとしていらっしゃるので、帝は続けておっしゃる。
「緊張しているのですか。位階(いかい)の件で私の好意(こうい)は伝わったと思っていたが、そんなことでお心は動かされない人だったのですね。恋をしても仕方がないというのに()かれてしまった。私たちの関係はこれ以上深くはならないのだろうか」

二十歳のお美しく若々しい帝でいらっしゃる。
でもそう意識するととてもお返事などできそうにないので、目の前におわすのは源氏の君だと思ってお返事申し上げる。
「尚侍になったばかりで三位(さんみ)(くらい)頂戴(ちょうだい)いたしましたが、恐れ多くも帝のご好意とは思いもよりませんでした。ただいまからは誠心誠意お仕え申し上げまして、ありがたいお気持ちに(むく)いられるよう(つと)めたいと存じます」
帝はくすくすとお笑いになる。
「ただいまからは誠心誠意、ですか。もう手遅れではないかな。あなたは私のものになるはずだったのに。人妻の身で何をしてくれると言うのだろう」

<あぁ、帝もやはり源氏の君と同じであられる。男性というのはどなたもこんなふうでいらっしゃるのだろう。ご期待させるような()()りをお見せしてはいけない>
()真面目(まじめ)なご様子でかしこまっていらっしゃるので、帝はそれ以上のことはおっしゃらない。
<だんだん慣れていってくれればよい>
気長(きなが)にお思いになってお帰りになる。
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