野いちご源氏物語 三一 真木柱(まきばしら)
(みかど)尚侍(ないしのかみ)様のお部屋へ行かれたことをお聞きになった右大将(うだいしょう)様は、心配でたまらなくなって内裏(だいり)からの退出をしきりにお(すす)めになる。
尚侍様ご自身も、
<このまま内裏にいれば帝との間に恐れ多いことが起きるかもしれない>
とご不安なの。
内大臣(ないだいじん)様にうまくお願いなさって、帝からご退出のお許しをいただかれた。

「仕方ありません。無理に引き()めたら、右大将はもう二度とあなたを参内(さんだい)させてくれないでしょうから。つらいことです。私が最初にあなたを求めたのに、他の人にかすめ取られたあげく、その男のご機嫌をとって従わなければならない。昔の物語にもそういう気の毒な人物がいましたね」
(くや)しくお思いになっている。

(うわさ)で聞いていたよりもずっと美しい人だ。何も知らされずふつうの女官(にょかん)として上がってきたとしても放ってはおけなかっただろう。右大将がねたましい。どうにかして私が本気だと分からせたい>
真剣にお気持ちを伝えようとなさるから、尚侍様は恐れ多く、現実ともお思いになれない。
源氏(げんじ)(きみ)内大臣(ないだいじん)様、右大将様のところから、それぞれ家来がお迎えにきている。
右大将様が何度も催促(さいそく)なさるけれど、帝は尚侍様をお離しにならないの。

「右大将は私を守る役職とはいえ、ずいぶんと近くで警護(けいご)してくれるものだな」
騒がしく尚侍様を()かすお声に苦笑して皮肉(ひにく)をおっしゃる。
「あの人が邪魔をしたとしても、必ずまた参内なさい」
ただそれだけの(おお)せだけれど、お顔立ちも雰囲気もすばらしい帝がおっしゃるから、尚侍様は感激なさる。
「帰したくないが、心配している人も気の毒ではある。さて、これからはどうやって手紙を届けたらよいだろう」
「風にお言伝(ことづて)くださいませ。お美しいお(きさき)様たちにとても(かな)わない私のところまで吹いてまいりますか(こころ)(もと)のうございますけれど」
完全に拒否するわけではない尚侍様のご様子をかわいらしいとお思いになりながら、帝はふり返りがちにお帰りになった。
< 27 / 37 >

この作品をシェア

pagetop