野いちご源氏物語 三一 真木柱(まきばしら)
二月になった。
源氏(げんじ)(きみ)はまだ右大将(うだいしょう)様を(うら)んでおられる。
<ひどいことをしてくれたものだ。あれほど行動力のある男だとは思わず油断していたのが(くや)しい>
何をご覧になっても尚侍(ないしのかみ)様を恋しく思い出される。
<もともとの運命がそうだったとしても、私がさっさと自分のものにしてしまっていれば、運命の流れを変えることができたのではないか。こんなに苦しむことはなかったはずだ>
寝ても覚めても尚侍様の面影(おもかげ)が浮かぶの。

兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様のような風流人(ふうりゅうじん)の妻になられたのだったら、たまにはからかうようなお手紙も送れただろうが、無風流(むふうりゅう)堅物(かたぶつ)な男の妻になった人にそれは送りにくい>
と、お手紙ひとつ送るのも遠慮なさっていた。
雨が降って静かなころ、源氏の君は女君(おんなぎみ)がまだ六条(ろくじょう)(いん)にいらしたころを思い出される。

<こんな日にはあの人の部屋へ行って退屈を(まぎ)らわせたものだったのに>
恋しくてたまらなくて、お手紙をお送りになった。
さすがに女君()てではなく女房(にょうぼう)宛てになさったから、人目(ひとめ)を気にしてはっきりとしたことはお書きにならない。
「こんな雨の日に、あなたは古里(ふるさと)のことを思い出してくださっているでしょうか。退屈なあまり(うら)めしかったことをあれこれ思い出します。どうにかして聞いていただきたいけれど」
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