野いちご源氏物語 三一 真木柱(まきばしら)
源氏(げんじ)(きみ)からのお手紙を女房(にょうぼう)から受け取って、女君(おんなぎみ)は泣いてしまわれる。
右大将(うだいしょう)様のお屋敷に移られてから、日が()つにつれて源氏の君を恋しく思い出されるの。
実の父君(ちちぎみ)なら「お会いしたい」と言えるけれど、源氏の君にそれはおっしゃれない。
<もう二度とお会いできないのだろうか>
と寂しくお思いになっている。

源氏の君の恋心や、ご自分がそれを鬱陶(うっとう)しく思っていたことは、この女房にもおっしゃっていない。
ただ女房はなんとなく気づいていて、
<どういうご関係だったのだろう>
と不思議に思っている。
<今さら何か申し上げるのも恥ずかしいけれど、頼りないように思われてもいけない>
女君はかしこまったお返事をお書きになった。
古里(ふるさと)がなつかしく、雨と涙で私の着物の(そで)()れております。こちらに参りましてから退屈な日々でございます。かしこ」

お読みになった源氏の君は、ご自分も涙がこぼれるような気がなさる。
周りの目を気にしてさりげなくお手紙をたたまれたけれど、お胸はいっぱいでいらっしゃる。
十五年近く前、皇太后(こうたいごう)様に朧月夜(おぼろづきよ)(きみ)との仲を()()かれたときのことを思い出される。
でもそれ以上につらい気がなさるのは、朧月夜の君のことは過去の話だからかしら。
<我ながら女好きは困った(くせ)だ。いつだって自業(じごう)自得(じとく)で悩みが()えない。人妻(ひとづま)になった玉葛(たまかずら)(きみ)に恋をしたところで無駄なのに>
頭では分かっていらっしゃるけれど、お心は収まらない。
教えていらっしゃった和琴(わごん)を弾いてごらんになると、女君の(かな)でた音色が思い出されて、余計にしんみりとなさる。
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