一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
それでも、約一年ぶりの再会で離婚協定の話をするのもなんだか寂しい話だ。私はあえて返事をせずににこりとだけ笑みを返した。
「じゃあ、私は自分の部屋に行きますね。お風呂は沸いているので好きな時にどうぞ」
努めて明るく言い、私は軽く会釈してリビングから出た。
廊下を歩いて自分の部屋に入る。扉を閉めてそのまま凭れ掛かった。
「はぁ、緊張した」
天井を見上げたら、ため息と一緒に漏れ出た独り言。他人と一緒に暮らすことにまったく慣れていない上に、あそこまでの鉄仮面。
戸籍上では夫である人だけど、初対面の時のまま無愛想だからか肩の力が抜けない。
でも、自分が援助を受けているのも事実。相手は明確な線引きをした上で、最善の環境を提供してくれている。それは仲良しこよしをするのが目的ではないのだから、彼の反応は一般的だ。情を持っても別れがあるだけ。立ち入らないほうが結婚もビジネスとして割り切れる。
我が儘言ってられないよね。
このまま順調にいけば、母の治療も区切りがついて落ち着くだろうし、鷹士さんのアパレル部門も黒字回復している。すべてにおいてハッピーになるなんていいことだらけだ。そう思って気持ちを切り替えると、つくりかけのぬいぐるみ制作へと戻った。
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