一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
そして、任されていたアパレル部門を立て直した。ということは、私たちの結婚生活の終わりも近いということ。大体一年くらいだと結婚する時に鷹士さんから言われたとおり。
ここから出ていく準備もしないとなぁ。
前のアパートは解約しているから新たなに探さないといけない。
実家に身を寄せるのは、結婚も知らせていない母が不審がるだろうから無理だ。期限を明確にせず猶予を残してくれているあたり、鷹士さんの優しさを感じた。
「一応建前上、私も居住はここにしていますが、別にホテル暮らしでも……」
「いえ、大丈夫です。こちらこそ住まわせていただいている身なので」
家主をホテルに追いやるなんてできない。
私が強く言えば、鷹士さんは「そうですか」と静かに目を伏せた。
「渡したカードもあまり、というかほぼ使われていないようですが」
「あ、自分の給料で必要な物は買えていますし、何より家賃も光熱費も鷹士さんが払ってくれています。十分ありがたいです」
「家賃は元々ありません。購入しているので」
「は?」
「持ち物件なので。」
マジか。
思わず呟きそうになった口を指先で押さえる。都内の高級タワーマンションのペナントハウス所有にいくらかかるのか。一度、ネットで賃貸だといくらかなと興味本位で検索したことがあったけど、高額すぎて度肝を抜かれた。それが購入となると想像もできない額だ。
「光熱費も微々たる額ですし、カードを遠慮なく使ってください。そういう契約ですし」
契約書を交わした時に、生活にかかる費用、住居などはすべて鷹士さんが持つと書いてあった。そのとおり、ここに住むうえでかかるお金はすべて払ってくれている。当初祖父が払う予定だった母の治療費もすべて彼持ちだ。鷹士さんから祖父に話を通してそうなったらしい。『斎賀の籍に入るのだから、こちらで払う』と。世間体的に斎賀の顔が立たないらしい。
「私の世話になりたくない気持ちもわかりますが、それだけの権利があなたにはあります。離婚の際も財産分与としてちゃんとした額を用意するつもりです」
「でも……」
「あなたに斎賀の籍を入ってもらった対価です。何よりあとで揉めごとにしたくないので」
ピシャリと言い切られたら、私の声は喉元で止まる。言い方が情というよりビジネス的な、後々の不安の芽を摘んでおきたいという感じだったから。私がお金のことで付きまとうと思っているというより、この結婚を長引かせたくないという雰囲気だ。
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