一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「まぁ今もあの頃の面影あるし、かっこいいもんね」
『ときめいたりしない?』
「しないしない。ほとんど顔合わさないし、話しかけにくいもん」
『そっか、まぁ普段のままの生活送れてるならよかった。意地悪されてたら私がぶん殴りにいくところだった』
「あはは、明里ちゃん頼もしい」
画面の向こうで拳を握る親友に私はつい笑みが溢れる。
「覚えていなくていいと思うんだ。一回会っただけだし、変に気を遣われるより気が楽」
あの頃の鷹士さんは悲しみの渦に呑まれているようだった。
『お母さんにもう会えない』
ふと折り紙をしながらそう漏らしたから。私は「そっか」としか言えなかった。私も父親にはもう会えないからなんとなく気持ちはわかった。子供ながらに理不尽な現実と渡り合わなければならない。でも、悲しみは早々に消えない。
私は金色の折り紙を一枚取った。綺麗で折り紙セットに一枚しか入っていなかったからなかなか使うのを躊躇っていた。それで折り鶴を折った。丁寧に、綺麗に。小さめの鶴だけどおう君にあげた。
『今日、遊んだ記念にあげる』
『え?』
『おう君の幸せを願って作ったよ』
そう言えば、おう君はきょとんとしてからおずおずとそれを受け取ってくれた。そして、自分の手元にある折り紙で私にも鶴を折ってくれた。彼の瞳の色をした鮮やかな水色の折り鶴。今も裁縫箱に入れてある。
「幸せを願って、か」
子供時代のこととはいえ、自分でも気障な真似をしたと思い出すたび羞恥で頬が熱くなる。彼が忘れていてくれるほうが有り難い。
結婚して干渉されることは一切ない。だから、自由で楽だ。でも、お互い空気みたいな扱い。せめて同居人として挨拶くらいはしようと、帰ってきた時くらいは顔を見せるようにしている。向こうは最低限の言葉を返してくれる。これが私達の今の距離感。納得はしている。だけど、少し侘しさが胸の端っこでもやもやと浮遊しているのも事実。忘れていてほしいのに、やっぱり覚えていてほしいような。自分
だからといって、無理に仲良しこよしするような関係ではないし、いずれ別れるのも決まってるからこんなもんだよね。
割り切っていたらそのうちこの距離感にも慣れるだろう。
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