一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「薬は食後に。でも、無理なら残していいですからね」
「……いただきます」
鷹士さんはぼんやりとお粥を見つめながらちゃんと手を合わせて蓮華を持つ。丁寧な仕草から礼儀が身に染みついているのだなと思いながら、私は踵を返した。
「じゃあ、また食べ終わるくらいに片付けに来ますね。寝ていてもらっていいので」
そう言って部屋を出た。食べるところをずっと観察されるのもしんどいだろう。なるべくそっとしておくほうがいい。私はそろそろと足音もあまり立てないように歩いてリビングのソファーに座った。すぐ何か異変を感じたら駆けつけられるように。
三十分くらいして一度部屋を訪ねてみる。ノックをしたけと返答がなくて、少しだけ扉を開けた。十センチほどの隙間から中を伺うとベットで寝ている彼の姿が見える。
そろりと部屋の中に入ってみる。起き上がる様子もない。足音を忍ばせているとはいえ、人が入ってきたら普段の鷹士さんなら気づきそうなもの。
顔を覗き込めば、目を閉じている。白い頬に赤みが滲み出ていた。呼吸も少し荒い。
熱上がってきたかな。
トレイの上に置いた薬は飲まれていた。
市販薬では効果が薄いのかな。でも、薬が効くまで時間はかかるから様子をみよう。あまりつらそうなら夜間病院に連れていかないと。
その判断をするタイミングを見誤らないように静かにベッドの傍らに膝をついた。
「……あ、さん」
薄い唇が動く。起きたのかと思ったけど目は閉じている。寝言だ。濃く刻まれた眉間の皺から魘されていると同時にわかった。
どうしよ、起こすべきかな?
「ごめ……な、さ」
でも、次に小さく漏れ出たそれに私は瞠目した。
何度も「ごめんなさい」と謝っている。伏せている睫毛がしっとり濡れる。
その顔が小さい頃に会ったおう君と被る。どこか心許なさそうで、でも、じっと痛みに耐えている。
自然とその肩をトントンと優しく叩くとうっすらと鷹士さんの瞼が開かれた。
「大丈夫。もう大丈夫」
ぼんやりとした瞳が私の言葉を聞いて、やがでゆっくりと閉じられた。力が抜けたように安らかな顔になって寝息を立て始める。
私はしばらく肩を擦りながら、ベッド横に座って見守っていた。
***
……そのはずだったのに、視界はなぜか一面のオフホワイト。端のほうに消えた円盤の照明が見える。ベッドの上で仰向けで寝ていると理解した後、さぁっと意識が一気に目覚める。
「はっ、何時?」
普通に出勤だ。遅番だから九時に起きたら間に合う。起き上がってベッドテーブルの電子時計を見る。まだ七時前だ。よかったと胸を撫で下ろす前にまた新たなことに気づく。
「ここは……私の部屋じゃない」