一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
焼けたトースターとマグに注いだコーヒーをテーブルに運んで朝食をいただく。
「おいしい」
味付けもシンプルだけどあたたかいごはんは私のために作られたもので。そう感じながら咀嚼するたび、じんわりと身体まであたたかくなった。


***


……と、ここまではよかった。
その晩、私は思わぬの事態に見舞われた。
「う、寒い」
底冷えするような寒さが足元から背筋へと這い上がってくる感覚。
両手で自分の身体を擦りながら自分の部屋へ向かう。
仕事終わりに感じた悪寒は帰宅したら震えが来るまでになっていた。冬に向かっているとはいえ、夜でも薄手のブルゾンで十分な防寒になる気温なのに。
家についてシャワーはなんとか浴びることができた。食欲はないけど、冷蔵庫にあったヨーグルトを胃に入れてから風邪薬を飲んだ。
こういう時はもう寝てしまおう。
自分の部屋のドアノブに手をかけた時、ガチャッと鍵が開く音がする。振り向いたら、玄関が開いて鷹士さんが入ってきた。八時過ぎ。彼にしては早い帰宅だ。でも、昨日不調だったから仕事を早めに切り上げたのかもしれない。
「あ、おかえりなさい」
「体調悪いんですか?」
開口一番言い当てられてギクリとする。両腕を擦っていた手を慌てて離して、後ろに回した。
「いえ、今日は冷えるなぁって」
「熱計りましょう」
「だ、大丈夫です」
「なんで拒むんですか?」
「だって、私大体わかるんです。体温が」
「私は目視での計測が無理なので、念のため計りましょう。どんな達人でもミスはありますから」
それらしく言ってくるけど、まったく目が私を信じていない。だけど、私もこれを論破できるほどの思考ができなくて、渋々リビングに行った。
「三十八度七分」
計ったら意外と高くて自分でもびっくりした。何かの間違いではと思って何度か瞬きしてみても、数値は変わらない。
「私のせいですね」
「あっいえ、移されたとしても潜伏期間があるので鷹士さんのせいではないです」
「私の看病で薄着のまま寝ていたせいもあるでしょう」
「あ、あたたかくして寝ていたら治りますから」
夕飯もシャワーも済ませられたし、あとは寝るだけだ。運良く明日は休み。一日寝ていたら治る。少し体調が悪くてもそれでどうにかなってきた。幼い頃から元気が取り柄だったから学校も仕事も休んだことはない。
それなのに、今日に限って頭がふわふわする。足元にも及んで、よたよたとした歩きになったら鷹士さんが私の腕を掴んだ。
「部屋まで支えます」
「え、いいです」
「ふらふらして倒れたら洒落になりませんよ」
「で、でもでも」
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