一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「こうして寝込むのなんて久しぶりで。最後は中学生くらいで土曜日だったんですけど、母は働きに出ないといけなくて。時間ギリギリまで看病していてくれたのが嬉しかった分、ひとりになると無性に寂しくて」
それを思い出してしまった。
あの時は、心配する母に無理に笑顔を作って大丈夫だと言った。母がいなくなったしんと静まった部屋で、ひとりで眠るのは慣れているのに、熱があるだけで取り残されたような孤独感が大きくなった。
「ひとりは嫌いですか?」
「好きではないです。鷹士さんは?」
「私はひとりで生活してきた時間が長いので、もうそういう感覚もないですね」
「私もそれに近いと思っていました。でも、なんだか鷹士さんが帰ってきて家に誰かいる気配があると、少し心がほっとするというか」
ふたりで生活していて、ほとんど顔を合わせないのに鷹士さんがいると思うと心なしか安心できた。多分、誰でもいいわけじゃなくて、かつては共に過ごしたおう君だからだ。あの時、ふたりで過ごした家の中には孤独はなくて、ただただ楽しかった。
「鷹士さんと暮らすようになって私って実は寂しがりなんだなってわかりました。……ひとりで平気なつもりでいただけでした」
話していても脈略がバラバラ。鷹士さんは嫌な顔ひとつせず耳を傾けてくれている。優しい人だと思った。
「すみません。纏まりのない話を」
「いえ」
鷹士さんは目を伏せて小さく首を振った。そろそろ行くかなと思ったら、彼はベッド脇に座り、私の肩を布団の上からポンポンと叩く。鼓動の速さと相まったとても穏やかなリズムだ。昨日、私がしたように。
「昔、熱を出したら父が夜遅くまでこうしてくれたのですが、嫌ならやめます」
「いえ、安心します。ありがとうございます」
私の答えに鷹士さんはどこかほっとしたように口角を緩めた。規則正しく刻まれるそれに私は自ずと目を閉じて、すぐに夢の中に落ちていった。


***


次に目を覚ました時、私の視界はまたオフホワイトの高い天井だった。
「はっ」
またやってしまった?と慌てて起き上がる。でも、四方から見つめてくるぬいぐるみたちが私の部屋だと知らせてくれる。彼の部屋で寝転がっていた昨日と錯覚していた頭がようやく現実に追いついてくる。カーテン越しに感じる太陽に目を細めながら起き上がった。昨日ベッド脇にいてくれた鷹士さんはいない。
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