一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「挨拶だけしたらいいので。あとは何を訊かれても私が答えます」
「わ、わかりました」
これは仕事と同じだ。同じようにお客様に向けて笑顔で対応する時を思い出すと何とかできそうな気がした。
入口前で受付を済ませて会場の入り口へと進もうとしたら、後ろから声を掛けられる。
「鷹士さん、お久しぶり」
振り向けば、着物姿の女性が立っていた。六十代くらいで、綺麗に結い上げた黒髪と品がいいメイクと所作。
でも、スクエアの眼鏡の奥の目が品定めするように私に注がれているから、内心では身構える。女性は私と目が合うとゆっくりと鷹士さんへ視線を移した。
「この方が奥様?」
「はい」
「ご結婚してからなかなかお見えにならないから。式も挙げてないでしょ?本当に結婚なさったのかと一部で不躾な噂がありましたのよ?」
「私がずっと海外にいましたので。あと人ゴミが苦手で。私も妻も」
あまりにも意味深な言葉と眼光で場の空気が一度以上下がった気がする。女性も顔が強張っている。険悪なムードに咄嗟に私は鷹士さんのスーツの袖を引いた。
「お、おうし、さん」
「では」
鷹士さんは睨み付けていた双眸を伏せて会釈をすると、袖を持っていた私の手を握る。ドキリとする間もなく、彼は女性に背を向けて会場の扉を開く。
中はきらびやかなシャンデリアが何個も下がっている広い会場だった。立食形式で両サイドに料理が並んだテーブルがあり、中央では何個か丸テーブルが置かれてその周りで談笑する正装した人たち。
わあ、舞踏会みたい。
年甲斐もなく少しメルヘンなことを思ってしまった。
鷹士さんに導かれて会場の端のバーカウンターに行く。そこでソフトドリンクをもらい、ふたりでそのまま会場が見渡せる壁際に立った。
「さっきは入り口で不快な思いをさせてすみません」
「いいえ、ああいう反応も予想していたので大丈夫です」
彼から一応斎賀の家の内情を聞いていた。
『この容姿のせいで一族の大部分から私は疎まれています』
昨日、帰宅した鷹士さんが私をリビングに呼んでそう言った。
『生まれた時からこの髪と目の色で。両親のどちらにも似ていなかったため、母はあらぬ不貞の疑いをかけられました。母方の曽祖母がスイス人だったらしく隔世遺伝でしたが、それをすんなり受け入れる親戚も少なく。結局DNA検査をして潔白を晴らしたのですが、元々一般家庭の出ということで母は陰湿ないじめに遭うこともあったようです』
鷹士さんの髪は暗めのゴールド。幼い頃はもっと明るいブロンドだった。今でも日に当たれば角度によってきらびやかに金に光る。そして、見る人を惹きつける鮮やかなブルーの瞳。どうしても、異国のものとして誰もが捉えてしまう。
「わ、わかりました」
これは仕事と同じだ。同じようにお客様に向けて笑顔で対応する時を思い出すと何とかできそうな気がした。
入口前で受付を済ませて会場の入り口へと進もうとしたら、後ろから声を掛けられる。
「鷹士さん、お久しぶり」
振り向けば、着物姿の女性が立っていた。六十代くらいで、綺麗に結い上げた黒髪と品がいいメイクと所作。
でも、スクエアの眼鏡の奥の目が品定めするように私に注がれているから、内心では身構える。女性は私と目が合うとゆっくりと鷹士さんへ視線を移した。
「この方が奥様?」
「はい」
「ご結婚してからなかなかお見えにならないから。式も挙げてないでしょ?本当に結婚なさったのかと一部で不躾な噂がありましたのよ?」
「私がずっと海外にいましたので。あと人ゴミが苦手で。私も妻も」
あまりにも意味深な言葉と眼光で場の空気が一度以上下がった気がする。女性も顔が強張っている。険悪なムードに咄嗟に私は鷹士さんのスーツの袖を引いた。
「お、おうし、さん」
「では」
鷹士さんは睨み付けていた双眸を伏せて会釈をすると、袖を持っていた私の手を握る。ドキリとする間もなく、彼は女性に背を向けて会場の扉を開く。
中はきらびやかなシャンデリアが何個も下がっている広い会場だった。立食形式で両サイドに料理が並んだテーブルがあり、中央では何個か丸テーブルが置かれてその周りで談笑する正装した人たち。
わあ、舞踏会みたい。
年甲斐もなく少しメルヘンなことを思ってしまった。
鷹士さんに導かれて会場の端のバーカウンターに行く。そこでソフトドリンクをもらい、ふたりでそのまま会場が見渡せる壁際に立った。
「さっきは入り口で不快な思いをさせてすみません」
「いいえ、ああいう反応も予想していたので大丈夫です」
彼から一応斎賀の家の内情を聞いていた。
『この容姿のせいで一族の大部分から私は疎まれています』
昨日、帰宅した鷹士さんが私をリビングに呼んでそう言った。
『生まれた時からこの髪と目の色で。両親のどちらにも似ていなかったため、母はあらぬ不貞の疑いをかけられました。母方の曽祖母がスイス人だったらしく隔世遺伝でしたが、それをすんなり受け入れる親戚も少なく。結局DNA検査をして潔白を晴らしたのですが、元々一般家庭の出ということで母は陰湿ないじめに遭うこともあったようです』
鷹士さんの髪は暗めのゴールド。幼い頃はもっと明るいブロンドだった。今でも日に当たれば角度によってきらびやかに金に光る。そして、見る人を惹きつける鮮やかなブルーの瞳。どうしても、異国のものとして誰もが捉えてしまう。