一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
グラスを近くのスタッフに渡し、挨拶の列が減りようやく中央にいた人物が見える場所に近づく。
白髪の髪をオールバックにした男性。
七十七歳と聞いていたけれど、剛健な体躯と鋭い眼差しが年齢よりかなり若く感じさせる。私の祖父もわりと眼光鋭いけれど、ここまで冷徹な印象はなかった。
「会長、誕生日おめでとうございます」
鷹士さんが声をかけて一礼する。隣に立った私もそれに倣って頭を下げた。会長は鷹士さんから私へと視線を移す。そのナイフみたいな双眸にごくりと唾を飲み込んだ。
「妻のつぐみです」
「こ、こんばんは。このたびはおめでとうございます」
もう一度先ほどよりも腰を折って礼をした。
ど、どもってしまった。
大切な第一声なのに。下に向けた顔に酸っぱい梅干しを食べた時みたいに皺が寄る。
「もう歳をとってもめでたいわけではないがな」
その声に頭を上げると、会長は私を見下ろしていた。
「鷹士とはうまくやっていけそうか?」
「はっ、はい」
「ならいい」
勢いよく何度も頷く私に会長は少しだけ口元を緩めた。あれ、意外と怖くないのかな。そう思っているうちにもう無表情に戻ってしまう。
「おじいさま。おめでとうございます」
後ろからひょっこりと顔を覗かせた美蘭さんに、会長はさきほどの笑みとは比べほどにならないほどにっこりと笑う。私は驚きで口を開いてしまった。
「美蘭か。旅行に行ってる聞いたが、戻ってきたんだな」
「ええ、アメリカのお土産持ってきたから、また帰りに受け取ってくださいね」
「ありがとう」
この温度差。
男女ということも関係があるのかわからないけど、明らかに違う。なんだ、これと呆けていると鷹士さんが私の手を引いた。
「それでは、私達はこれで失礼します」
それだけ会長に言って列から離れる。
会長は美蘭さんとの会話していて鷹士さんの言葉も届いているのか反応がなかった。
私は唖然として腕を引かれるまま輪から離れる。ある程度離れたところで鷹士さんは手を離した。
「お疲れ様。帰ろう」
「あ、あの……会長っていつもあんな感じなんですか?」
声を忍ばせる私へと屈んだ彼は口元に苦笑を滲ませる。
「まぁあんなものかな」
「少し、偏りすぎでは……」
「会社でも仕事以外の話はしない。ああ見えて仕事では公平なんだ。そういうところがまだ尊敬できるかな」
白髪の髪をオールバックにした男性。
七十七歳と聞いていたけれど、剛健な体躯と鋭い眼差しが年齢よりかなり若く感じさせる。私の祖父もわりと眼光鋭いけれど、ここまで冷徹な印象はなかった。
「会長、誕生日おめでとうございます」
鷹士さんが声をかけて一礼する。隣に立った私もそれに倣って頭を下げた。会長は鷹士さんから私へと視線を移す。そのナイフみたいな双眸にごくりと唾を飲み込んだ。
「妻のつぐみです」
「こ、こんばんは。このたびはおめでとうございます」
もう一度先ほどよりも腰を折って礼をした。
ど、どもってしまった。
大切な第一声なのに。下に向けた顔に酸っぱい梅干しを食べた時みたいに皺が寄る。
「もう歳をとってもめでたいわけではないがな」
その声に頭を上げると、会長は私を見下ろしていた。
「鷹士とはうまくやっていけそうか?」
「はっ、はい」
「ならいい」
勢いよく何度も頷く私に会長は少しだけ口元を緩めた。あれ、意外と怖くないのかな。そう思っているうちにもう無表情に戻ってしまう。
「おじいさま。おめでとうございます」
後ろからひょっこりと顔を覗かせた美蘭さんに、会長はさきほどの笑みとは比べほどにならないほどにっこりと笑う。私は驚きで口を開いてしまった。
「美蘭か。旅行に行ってる聞いたが、戻ってきたんだな」
「ええ、アメリカのお土産持ってきたから、また帰りに受け取ってくださいね」
「ありがとう」
この温度差。
男女ということも関係があるのかわからないけど、明らかに違う。なんだ、これと呆けていると鷹士さんが私の手を引いた。
「それでは、私達はこれで失礼します」
それだけ会長に言って列から離れる。
会長は美蘭さんとの会話していて鷹士さんの言葉も届いているのか反応がなかった。
私は唖然として腕を引かれるまま輪から離れる。ある程度離れたところで鷹士さんは手を離した。
「お疲れ様。帰ろう」
「あ、あの……会長っていつもあんな感じなんですか?」
声を忍ばせる私へと屈んだ彼は口元に苦笑を滲ませる。
「まぁあんなものかな」
「少し、偏りすぎでは……」
「会社でも仕事以外の話はしない。ああ見えて仕事では公平なんだ。そういうところがまだ尊敬できるかな」