一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
一歩踏み出したお義父さんに慌ててお礼を言えば、振り向いた顔がにこりと微笑む。
その背中が見えなくなって私はまた肩の力を抜いた。
正直、早く帰りたい。着慣れないドレスもヒールの高い靴も私の不慣れさのせいでせっかくの品質を損なわせている。周囲の人と比べて余計に自己嫌悪になるくらいだ。
でも、あんまり疲れた顔を鷹士さんには見せられない。
私の負担になっていると悟ったら、彼は自責の念を持つだろう。優しくて、自分に厳しい人だ。
もう少し頑張ろう。
そう決めて腹に力が入れて、会場付近で鷹士さんを待とうと立ち上がった。
その前に軽く化粧直ししよう。
帰るとはいえ、あまりひどい顔ではいられない。斎賀の関係者にみすぼらしい姿を見られて、評価か落ちるのは鷹士さんだ。そう思って化粧室へと方向を変えたら、その前で幼稚園くらいの女の子がひとり立っていた。
嗚咽を溢して泣いている。親らしい大人は近くにいない。綺麗なロイヤルブルーのワンピースを着ているから斎賀のパーティーに連れてこられたのだろう。
「どうしたの?」
私が近寄って声をかけると、女の子はビクッと肩を震わせた。私を見上げる顔が少し強張っている。知らない大人から声をかけられたら普通そうなる。でも、放っておけなかったからせめて親が来るまではと思った矢先、腕に抱えられていたぬいぐるみへと視線を落とした。
「うさぎさんの洋服がやぶれちゃったの?」
「う、うん。そこのドアに挟まっちゃって」
女の子は会場の大きな扉を指さした。無理やり引き抜いたのだろう。うさぎは女の子と同じ色のワンピースを着ていて、裾が三センチほど裂けていた。
「ちょっといい?」
警戒をされないように微笑んで手を出せば、女の子はおずおずとだけどぬいぐるみを渡してくれる。破れた部分を見て私はふむと小さく頷いた。
「これなら、なんとかできそう」
「ほんと?」
「うん、ちょっと待っててね」
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