一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
さきほどのソファーまで戻り、バッグから携帯用ソーイングセットを出す。できるだけ似た色の水色の糸を針に通して、敗れた部分をできるだけ細かく縫っていった。女の子は私が集中して縫い上げていく様子を口を開けて見つめていた。もう涙は止まっていたからひとますよかったと口元が緩む。
玉止めして出来上がりを確認した。縫い目が隠れるように縫ったけど、そこだけ不自然に皺が寄ってしまう。どうしようかと思案するうちに胸元に目が止まる。
つけていたコサージュを外してそこにつけた。ブルーの花が咲いたようにワンピースに映えて、女の子は「わぁ」と小さく声を上げた。
「どうかな?」
「ありがとう!魔法使いみたい」
「あはは、ありがと」
応急処置しかできなかったけど、喜んでもらえたならよかった。あとはこの子の親か関係者を見つけようと思ったところで、
「芽衣ちゃんっ」
と廊下を小走りでやってくる女性がいた。私と同世代くらいの女性で、肩までのピンクブラウンの髪を緩く捲いている。女の子が「ママ」と呼んだから、母親が現れたとほっと息を吐いた。でも、女性は私を見て明らかにギクリと顔を強張らせる。
「あ、こ、こんばんは」
「こんばんは」
「このお姉さんが直してくれたの!」
女の子がうさぎのぬいぐるみを母親に見せる。母親は私と女の子を交互に見てから慌てて頭を下げた。
「あ、ありがとうございます!すみません、うちの子が」
「いえ、たまたま通りかかったので」
私が笑顔で応じても女性の表情はまだ硬い。私が誰か知っている感じだ。鷹士さんをよく思っていない親戚筋なのか。そう予想したら、案の定先ほど入り口で鷹士さんに威嚇された着物の女性がこちらにやってくる。悠然とした所作で女性の隣に立った。
「由布子さん、どうしたの?」
「あ、この方が芽衣の人形を直してくださって」
「あら、すごいわね」
言葉とは反対の冷めた眼差しが向けられる。この人の関係者か。今度は私の顔が引き攣りそうになった。
「いえ、簡単に縫い合わせただけです」
「うちの嫁は裁縫とか家事が全然駄目でね。助かりました」
丁寧に頭を下げられる。隣の女性は唇を引き結んで俯いた。義母と仲がいいわけではなさそうだし、これでは肩身が狭そうだ。微妙な空気に早めに立ち去るべきだと私は口を開きかけた。
「それにしても家庭的な奥さんで鷹士さんも喜んでらっしゃるでしょう。百合恵さんも家庭的でいらっしゃるし」
玉止めして出来上がりを確認した。縫い目が隠れるように縫ったけど、そこだけ不自然に皺が寄ってしまう。どうしようかと思案するうちに胸元に目が止まる。
つけていたコサージュを外してそこにつけた。ブルーの花が咲いたようにワンピースに映えて、女の子は「わぁ」と小さく声を上げた。
「どうかな?」
「ありがとう!魔法使いみたい」
「あはは、ありがと」
応急処置しかできなかったけど、喜んでもらえたならよかった。あとはこの子の親か関係者を見つけようと思ったところで、
「芽衣ちゃんっ」
と廊下を小走りでやってくる女性がいた。私と同世代くらいの女性で、肩までのピンクブラウンの髪を緩く捲いている。女の子が「ママ」と呼んだから、母親が現れたとほっと息を吐いた。でも、女性は私を見て明らかにギクリと顔を強張らせる。
「あ、こ、こんばんは」
「こんばんは」
「このお姉さんが直してくれたの!」
女の子がうさぎのぬいぐるみを母親に見せる。母親は私と女の子を交互に見てから慌てて頭を下げた。
「あ、ありがとうございます!すみません、うちの子が」
「いえ、たまたま通りかかったので」
私が笑顔で応じても女性の表情はまだ硬い。私が誰か知っている感じだ。鷹士さんをよく思っていない親戚筋なのか。そう予想したら、案の定先ほど入り口で鷹士さんに威嚇された着物の女性がこちらにやってくる。悠然とした所作で女性の隣に立った。
「由布子さん、どうしたの?」
「あ、この方が芽衣の人形を直してくださって」
「あら、すごいわね」
言葉とは反対の冷めた眼差しが向けられる。この人の関係者か。今度は私の顔が引き攣りそうになった。
「いえ、簡単に縫い合わせただけです」
「うちの嫁は裁縫とか家事が全然駄目でね。助かりました」
丁寧に頭を下げられる。隣の女性は唇を引き結んで俯いた。義母と仲がいいわけではなさそうだし、これでは肩身が狭そうだ。微妙な空気に早めに立ち去るべきだと私は口を開きかけた。
「それにしても家庭的な奥さんで鷹士さんも喜んでらっしゃるでしょう。百合恵さんも家庭的でいらっしゃるし」