一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
夫人からの言葉が先に放たれて、私は口が半開きのまま固まる。百合恵さんは鷹士さんのお母さんの名前だ。どうして、今引き合いに出されるのか。
「身体が弱いとは言え、ずっと家にいるのも大変よね。社長夫人としても社交場では、もうほとんど顔も知られてないもの。百合恵さんよりあなたのお母様と結婚していたほうがよかったかもしれないわ。今さら娘のあなたも親の尻拭いをさせられて嫌でしょう?」
夫人の細められた双眼が嘲笑っていた。私はあれだけ保とうとしていた笑顔が一瞬で消える。
鷹士さんの容姿で親戚から不貞を疑われて、心ない言葉で病んでしまった。こういうことかと思えば、すっと波のように引いていく。残ったのは自分でも驚くほど冷えきった軽蔑と沸々と燃え始めた怒り。
「……確かに母は昔、義父と婚約しておりましたが、ふたりとも納得しての破談だと聞きました。それに関しては私から言うことはありません」
だめだ、だめ。
理性がこれ以上は大事になると警告してくる。鷹士さんやお義父さんにも迷惑がかかる。私が笑って流せばこの人も満足してどこかに行くはず。
頭では何が最善かわかっているのに、憤怒がマグマみたいにうねり、理性を捻じ伏せた。
「あと義母ですが、皆様の言うとおり身体が弱く公の場に出てこられない日々が続いております。ですが、無理がたたってはまた周囲に迷惑がかかりますので、こういう場所には鷹士さんや私が出席すればいいことですし、皆様が心配なされる社長夫人としての責務も分担すればいいだけですので、ご心配にはおよびません」
睨むように見据えて言い放った声がホテルの優雅な空間に異質に響く。夫人は唖然として私を見ていた。すぐに怒りを表情に浮かべる。
「何を偉そうに……。あなたに何ができるって言うの?どこの卑しい血が混じったかわからないような女のくせに!本当なら斎賀の籍に入ることも許されないのよ!あんたなんか、絶対追い出して……」
「今なんて言った?」
罵倒をよく通る美声が止めた。そちらを向けば、声に相応しい美丈夫が立っていた。ただし、その顔は冷酷なほど冷めて、周囲の空気すら凍らせてしまいそうなほどで、私ですら背筋が寒くなった。
「身体が弱いとは言え、ずっと家にいるのも大変よね。社長夫人としても社交場では、もうほとんど顔も知られてないもの。百合恵さんよりあなたのお母様と結婚していたほうがよかったかもしれないわ。今さら娘のあなたも親の尻拭いをさせられて嫌でしょう?」
夫人の細められた双眼が嘲笑っていた。私はあれだけ保とうとしていた笑顔が一瞬で消える。
鷹士さんの容姿で親戚から不貞を疑われて、心ない言葉で病んでしまった。こういうことかと思えば、すっと波のように引いていく。残ったのは自分でも驚くほど冷えきった軽蔑と沸々と燃え始めた怒り。
「……確かに母は昔、義父と婚約しておりましたが、ふたりとも納得しての破談だと聞きました。それに関しては私から言うことはありません」
だめだ、だめ。
理性がこれ以上は大事になると警告してくる。鷹士さんやお義父さんにも迷惑がかかる。私が笑って流せばこの人も満足してどこかに行くはず。
頭では何が最善かわかっているのに、憤怒がマグマみたいにうねり、理性を捻じ伏せた。
「あと義母ですが、皆様の言うとおり身体が弱く公の場に出てこられない日々が続いております。ですが、無理がたたってはまた周囲に迷惑がかかりますので、こういう場所には鷹士さんや私が出席すればいいことですし、皆様が心配なされる社長夫人としての責務も分担すればいいだけですので、ご心配にはおよびません」
睨むように見据えて言い放った声がホテルの優雅な空間に異質に響く。夫人は唖然として私を見ていた。すぐに怒りを表情に浮かべる。
「何を偉そうに……。あなたに何ができるって言うの?どこの卑しい血が混じったかわからないような女のくせに!本当なら斎賀の籍に入ることも許されないのよ!あんたなんか、絶対追い出して……」
「今なんて言った?」
罵倒をよく通る美声が止めた。そちらを向けば、声に相応しい美丈夫が立っていた。ただし、その顔は冷酷なほど冷めて、周囲の空気すら凍らせてしまいそうなほどで、私ですら背筋が寒くなった。