一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
エレベーターに乗り、地下の駐車場へと降りる。鷹士さんの白いセダンの高級車に無言のまま乗り込んだ。
「……すみません、待たせてしまって。しかも、ひどい目に合わせて」
暗い声音でぽつりと言った。私は気まずい気持ちを消せず、隣の運転席へ顔を向ける。
「いえ、こちらこそ……すみません」
「何がですか?」
「あの前に言い返してしまったので。本当なら無視していればよかったのに、事を大きくしてしまいました」
「何を言われたんです?」
「え……あ、それは、ですね」
「私の母のことですね?」
言葉を濁した私に彼は元から予想していたかのように言った。沈黙が肯定している形になり、さらに気まずさを増す。
「母のことは何度も言われてきたことなので。あなたに無礼な真似はさせないと気を付けていたのに、嫌な思いをさせて申し訳ない」
「いえ、鷹士さんが来てくれて助かりました。じゃなきゃ、きっと大事になっていたと思います。私もっと言い返すつもりだったので」
「あなたが?」
「はい。母子家庭だったから子供の頃はそのことで悪口言われたりもあって。大体が母のことでした。やっぱり、親を悪く言われたら腹が立ってしまう気持ちもわかります。って、鷹士さんと比べるのもおこがましいレベルなんですけどっ」
小学生の悪口と大人の陰湿な虐めでは度合いが違う。慰めにもならない自分の浅慮さに恥ずかしくなる。でも、鷹士さんは緩く首を横に振った。
「いいえ、嬉しいです。味方をしてくれて。あまり、そういう人はいなかったので」
少し口元を綻ばせながらも言葉の最後は寂しく霞んでいた。ああいう場面はめずらしいものではなかったのだろう。特に鷹士さんの母親は集中的に攻撃されたに違いない。
想像するだけで胸が痛む。ぐっと唇を合わせたら、鷹士さんは上半身をこちらに向けて深く頭を下げた。
「それなのに、不快な目にあわせてしまいすみません」
「え?いえ、本当に私は大したことなくて」
「怖かったはずです。ただでさえ、慣れない場所に駆り出されて」
確かに怖かった。でも、それ以上に腹が立ったから言い返したのだ。だから、これは自己責任であって、鷹士さんが気に病むことではない。
「……すみません、待たせてしまって。しかも、ひどい目に合わせて」
暗い声音でぽつりと言った。私は気まずい気持ちを消せず、隣の運転席へ顔を向ける。
「いえ、こちらこそ……すみません」
「何がですか?」
「あの前に言い返してしまったので。本当なら無視していればよかったのに、事を大きくしてしまいました」
「何を言われたんです?」
「え……あ、それは、ですね」
「私の母のことですね?」
言葉を濁した私に彼は元から予想していたかのように言った。沈黙が肯定している形になり、さらに気まずさを増す。
「母のことは何度も言われてきたことなので。あなたに無礼な真似はさせないと気を付けていたのに、嫌な思いをさせて申し訳ない」
「いえ、鷹士さんが来てくれて助かりました。じゃなきゃ、きっと大事になっていたと思います。私もっと言い返すつもりだったので」
「あなたが?」
「はい。母子家庭だったから子供の頃はそのことで悪口言われたりもあって。大体が母のことでした。やっぱり、親を悪く言われたら腹が立ってしまう気持ちもわかります。って、鷹士さんと比べるのもおこがましいレベルなんですけどっ」
小学生の悪口と大人の陰湿な虐めでは度合いが違う。慰めにもならない自分の浅慮さに恥ずかしくなる。でも、鷹士さんは緩く首を横に振った。
「いいえ、嬉しいです。味方をしてくれて。あまり、そういう人はいなかったので」
少し口元を綻ばせながらも言葉の最後は寂しく霞んでいた。ああいう場面はめずらしいものではなかったのだろう。特に鷹士さんの母親は集中的に攻撃されたに違いない。
想像するだけで胸が痛む。ぐっと唇を合わせたら、鷹士さんは上半身をこちらに向けて深く頭を下げた。
「それなのに、不快な目にあわせてしまいすみません」
「え?いえ、本当に私は大したことなくて」
「怖かったはずです。ただでさえ、慣れない場所に駆り出されて」
確かに怖かった。でも、それ以上に腹が立ったから言い返したのだ。だから、これは自己責任であって、鷹士さんが気に病むことではない。