一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「あ、慣れてはいないですけど、むしろ新しい世界が見れて、勉強になりましたよ?」
自分でも何が勉強になったのかわからないけれど、とにかく彼に気負いさせたくなくて頭に浮かんだことを声にする。それでも、向こうの顔色は全然晴れない。むしろ、ますます曇っていく。
「そもそも内輪の集まりに来てもらったのが悪かったのだから、何か詫びをしないと気が済まない。何でも言ってください」
「何でもって……」
「そのままの意味です。何でも欲しいもの言ってください」
さぁ、どうぞと言わんばかりに手のひらを向けてくる。
真顔から放出される謎のプレッシャーになぜか冷や汗が出た。ここで冗談でも「じゃあ、ハワイに別荘がほしい」とか言えば、笑い事じゃなく本当に購入してくるくらいの圧力。反対に何もいらないと言っても、彼は折れないだろう。それくらい真剣なのが伝わってくる。
ど、どうしよう。
何か適当にはぐらかし……はできないかもだけど、納得させられるような……。
「言いにくいなら渡したクレカで好きなもの買って……」
「え、い、いいです!」
考えているうちにどんどん話が進んでいくから、さらに焦る。あわあわしているうちに、間が悪く私の腹が鳴った。ぐぅぅっと低く、でも、はっきりと車内に響く。
鷹士さんの視線も私のおなかへと下りてくる。
は、恥ずかしい。
思わず胃のあたりを押さえた時、いい案が浮かんだ。
「あの……今からごはん食べに行きませんか?鷹士さんの奢りで。それで今日のことはチャラです」
「そんなことでいいんですか?」
「はい。大切なことですよ。食欲って三大欲求ですし」
私が人差し指を立てて言えば、彼は黙る。
納得がいっていない顔だ。本当に真面目。ついクスリと笑いそうになる。
今日もとても気を遣ってくれていた。何が私に質問が投げられても彼が応えてくれまし、ずっと私を庇ってくれて優しいなと思った。表現は苦手だけど、行動は誠意に満ちている。それが彼の本質。一緒に暮らしてみたらわかってきた。
だから、何か言おうとする鷹士さんより先に私は口を開く。
「あと、こういう時は『ありがとう』のほうが嬉しいです」
「え?」
「『すみません』よりも、そっちのほうが私もいいことしたなって気持ちがいいので」
そう言えば、眉間の皺がなくなり虚を突かれた顔になる。切れ長の双眸が丸々と開かれて瞬きする様は可愛く、普段全く見られない仕草に得した気分になる。
彼は逡巡した様子で視線をうろつかせてから、口元を手で覆った。
「……ありがとうございます」
頬が少し赤くなっていたのは、冬の寒さに当てられたせい……ということで気づかないふりをした。
鷹士は咳払いの後、エンジンをかけた。暗い車内にエンジンの低い音がおなかの底に響いて、どこか高揚した気分に拍車をかける。
自分でも何が勉強になったのかわからないけれど、とにかく彼に気負いさせたくなくて頭に浮かんだことを声にする。それでも、向こうの顔色は全然晴れない。むしろ、ますます曇っていく。
「そもそも内輪の集まりに来てもらったのが悪かったのだから、何か詫びをしないと気が済まない。何でも言ってください」
「何でもって……」
「そのままの意味です。何でも欲しいもの言ってください」
さぁ、どうぞと言わんばかりに手のひらを向けてくる。
真顔から放出される謎のプレッシャーになぜか冷や汗が出た。ここで冗談でも「じゃあ、ハワイに別荘がほしい」とか言えば、笑い事じゃなく本当に購入してくるくらいの圧力。反対に何もいらないと言っても、彼は折れないだろう。それくらい真剣なのが伝わってくる。
ど、どうしよう。
何か適当にはぐらかし……はできないかもだけど、納得させられるような……。
「言いにくいなら渡したクレカで好きなもの買って……」
「え、い、いいです!」
考えているうちにどんどん話が進んでいくから、さらに焦る。あわあわしているうちに、間が悪く私の腹が鳴った。ぐぅぅっと低く、でも、はっきりと車内に響く。
鷹士さんの視線も私のおなかへと下りてくる。
は、恥ずかしい。
思わず胃のあたりを押さえた時、いい案が浮かんだ。
「あの……今からごはん食べに行きませんか?鷹士さんの奢りで。それで今日のことはチャラです」
「そんなことでいいんですか?」
「はい。大切なことですよ。食欲って三大欲求ですし」
私が人差し指を立てて言えば、彼は黙る。
納得がいっていない顔だ。本当に真面目。ついクスリと笑いそうになる。
今日もとても気を遣ってくれていた。何が私に質問が投げられても彼が応えてくれまし、ずっと私を庇ってくれて優しいなと思った。表現は苦手だけど、行動は誠意に満ちている。それが彼の本質。一緒に暮らしてみたらわかってきた。
だから、何か言おうとする鷹士さんより先に私は口を開く。
「あと、こういう時は『ありがとう』のほうが嬉しいです」
「え?」
「『すみません』よりも、そっちのほうが私もいいことしたなって気持ちがいいので」
そう言えば、眉間の皺がなくなり虚を突かれた顔になる。切れ長の双眸が丸々と開かれて瞬きする様は可愛く、普段全く見られない仕草に得した気分になる。
彼は逡巡した様子で視線をうろつかせてから、口元を手で覆った。
「……ありがとうございます」
頬が少し赤くなっていたのは、冬の寒さに当てられたせい……ということで気づかないふりをした。
鷹士は咳払いの後、エンジンをかけた。暗い車内にエンジンの低い音がおなかの底に響いて、どこか高揚した気分に拍車をかける。