一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「じゃあ、嫌いな食べ物は?」
「ウニといくら」
これは即答できた。私は意外性に目を丸くする。
「へぇ、意外」
「食感があんまり得意じゃないんだ。少量だったりソースに使われているのは平気なんだが」
「味じゃないのね」
「そう。そっちは?」
「私は、激辛ラーメン」
「限定的だな」
「高校生の時に私のラーメンに友達がふざけて大量にタバスコ入れて知らずに食べて死ぬかと思ったことがあって」
「それは嫌だな」
「でしょ?食べ物で遊んだらだめだよね」
決して大盛り上がりするわけではないけれど、ぽつぽつと話す他愛ない話がラリーのように続いていく。
ちょうどこれくらいが私には心地がいい。下手に相手の顔色を窺うこともなく、自分の意見をぽんっとそこに投げられる安心感。無視されることもなく、かといって何か厳しい意見が返されるわけもない。ただのお互いを知るために話すだけの空間が穏やかで、こういう時間が一日の終わりにある贅沢にほっとする。ひとりだとできない贅沢だ。
「実は焼肉っていったけど、冷麺が食べたくて……」
私が言えば、彼は小さく吹き出した。
「いいよ。冷麺もおいしいところにしよう」
薄暗い中でも優しげに眦を下げるのが街灯の光で見える。
お、可愛い。
といえば、また微妙な顔をされるから私は黙ってそれを目に焼きつけた。
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