一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
***


次の日は休みだった。鷹士さんは仕事で朝からいない。私も家事を済ませて昼前にマンションを出た。近くのカフェに着くと、テラス席にいた女性がサングラスを取って手を上げる。
「つぐみさん」
「美蘭さん」
私は店頭にいたスタッフに目配せした。スタッフも連れだと理解して、どうぞと手で促してくれる。会釈をして直接そちらに向かうと、空いている椅子を美蘭さんが引いてくれた。
「昨日はお疲れさま。私たちのことお兄ちゃんにバレるんじゃないかってひやひやしたわ」
「私もです。美蘭さんすごく自然だったし、バレていないと思います」
「つぐみさんもなかなかの演技派だったわよ」
彼女はふふふと悪い笑みで声を潜める。私は大根役者だっただろうから渇いた笑いを浮かべた。
私は椅子に座ると、メニューで美蘭さんと同じランチセットを頼んだ。スタッフが退いたのを見計らって美蘭さんはテーブルに身を乗り出してくる。
「例の物持ってきてくれた?」
「はい」
私は持ってきた紙袋をテーブルに置いた。それを一瞥して美蘭さんが微笑む。
「ありがとう。中を見ても?」
「どうぞ」
頷けば、さっそくという感じで彼女が中を覗きこむ。そして、綺麗なネイルが施された華奢な手を入れ、中身を取り出しま。
薄いブルーの不織布の巾着を開けて現れたそれに彼女は息を呑んだ。
「か……かわいいー!!」
中には同じブルーのウサギ耳のついたフード付きトレーナーとズボン。ただし、人形サイズ。美蘭さんは自分のバッグから人形を取り出す。紺色の頭と瞳の男の子の人形は片手サイズの二頭身だ。
「ちょっと着せてもいい?」
「はい、サイズを見ていただいて」
美蘭さんはせっせと服を着せていく。人形の短い手足もちゃんと入った。
「ぴったり!すごい似合う~」
大満足という感じで彼女は人形を掲げた。
「ありがとう。これ持って今度のライブに行くね」
「満足いただけてよかったです」
私も喜んでもらえてほっとする。サイズはちゃんと把握していたけれど、実際手元にないから着せるまでは安心できない。
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