一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
無条件に間近で最高級の微笑を見られる特権があるのだから、二人分の食事を作るくらいなんともない。淹れたコーヒーをマグに注ぎ、ザッハトルテと一緒にテーブルに運ぶ。向かい合わせで座ると
「「いただきます」」
ふたり図らずも声が重なった。誤差がないそれに思わずお互い顔を見合わせた。
ひとりだとこういうこともないから面映ゆくてつい照れ笑いをすれば、鷹士さんは視線を横に流して口元を隠すように拳を上げて一度咳払いをした。
「おいしそう」
チョコレートのまろやかな照りを眺めてから、フォークを入れる。
一口食べれば、濃厚なチョコレートとアプリコットジャムの酸味がスポンジの絶妙な甘さと混ざりあう。つい唸り声が出た。
「ん~おいしい」
「よかった」
私の反応にほっとしてから、鷹士さんも食べ始める。綺麗にフォークで掬って食べていく。前もこんなことがあった。
おう君が私の家に預けられた時、仕事の昼休みに抜けてきた母がザッハトルテを買ってきてくれてふたりで食べた。その時のおう君はケーキを頬張ってすぐに食べきっていた。甘いものが好きなのかチョコレートが好きなのか。どちらにせよ、沈んだ表情ばかりの子がほんわりと緊張の糸を緩めたみたいで嬉しかったのを覚えている。
今の鷹士さんは一口ずつ上品に咀嚼している。それを見たら大人になったおう君に時の流れを感じるけど、何も言わない。あの頃の記憶を思い出したくないとお義父さんから聞いてから、一層私はその片鱗も出さないよう気をつけている。
「「いただきます」」
ふたり図らずも声が重なった。誤差がないそれに思わずお互い顔を見合わせた。
ひとりだとこういうこともないから面映ゆくてつい照れ笑いをすれば、鷹士さんは視線を横に流して口元を隠すように拳を上げて一度咳払いをした。
「おいしそう」
チョコレートのまろやかな照りを眺めてから、フォークを入れる。
一口食べれば、濃厚なチョコレートとアプリコットジャムの酸味がスポンジの絶妙な甘さと混ざりあう。つい唸り声が出た。
「ん~おいしい」
「よかった」
私の反応にほっとしてから、鷹士さんも食べ始める。綺麗にフォークで掬って食べていく。前もこんなことがあった。
おう君が私の家に預けられた時、仕事の昼休みに抜けてきた母がザッハトルテを買ってきてくれてふたりで食べた。その時のおう君はケーキを頬張ってすぐに食べきっていた。甘いものが好きなのかチョコレートが好きなのか。どちらにせよ、沈んだ表情ばかりの子がほんわりと緊張の糸を緩めたみたいで嬉しかったのを覚えている。
今の鷹士さんは一口ずつ上品に咀嚼している。それを見たら大人になったおう君に時の流れを感じるけど、何も言わない。あの頃の記憶を思い出したくないとお義父さんから聞いてから、一層私はその片鱗も出さないよう気をつけている。