一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
仕事が終わり、百貨店の中にあるカフェに向かった。
友達や恋人と談笑する人やパソコン作業に没頭する人など、様々な人がいる中に美蘭さんはただ座っているだけでも目立っていた。モデルが雑誌から出てきたかのような人だ。周囲の人も一度は目をやるくらいだから、すぐに発見できる。店に入った私に彼女も気づいてひらひらと手を振った。
「つぐみさん、お疲れ様です」
「すみません、お待たせしました」
「いいえ、こちらこそ仕事終わりにごめんなさい」
「いえ、職場まで来てもらったので。これ、出来上がりました」
座って早速持っていた紙袋をテーブルに置く。彼女は嬉しそうに頬を上げて手を伸ばした。
「早くて助かります。母も喜びま……」
そこまで言って美蘭さんは固まった。視線は私を通り越したところ。
「どういうことだ?」
硬質な声音が耳に届いていたすべて喧騒を遠のかせる。嫌な予感しかない。振り向きたくないけれど、そうしていられるわけもない。後ろを見れば、スーツ姿の鷹士さんが険しい表情で私たちを見据えていた。
「俺の母親に人形を?」
「……はい」
尋問のようなそれに静かに頷く。これで「そうか」と許してくれるわけがない。彼は私がそれ以上口を開かないとみると、苛立ちを含んだため息を吐いた。
「あの青い目の人形だろ?髪が明るい茶色で」
「お兄ちゃん、これは……」
「はい。お義母様へのものです」
美蘭さんが席を立って間に入ろうとする。その前に私は正直に答えた。まっすぐ見つめ返した私に彼の瞳は失望の色を明らかに濃くする。
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