一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
店仕舞いをして更衣室に行けば、鷹士さんからメッセージが入っていた。指定された店は百貨店内の懐石料理の店で、簡易な個室もあってゆっくり会話ができる。その分値段も高いのだけど、ざわついた店で離婚の話を進めるのは最適ではない。鷹士さんの配慮を感じながら、目的の階までエレベーターで上がり、白い麻の生地に隅に上品な書体で店の名前が書かれた暖簾をくぐった。
店員に案内されたのは、簡易な個室で四人用テーブルが置かれた部屋だった。サッシの木製扉の先に、ピンと背筋を伸ばして座っている鷹士さんがいて、こちらも釣られて背中が伸びる。
「お待たせしました」
「いや、こちらこそ仕事中に訪ねてすまない」
「いいえ、私もいきなり出ていったから。話し合ってからにすればよか……」
「そのことなんだが……まぁ、座って」
向かいの席を示されて、私はおずおずと椅子を引いて座った。でも、すぐに話し出す空気ではなく、沈黙が先にふたりの間に下りてくる。
昨日は偉そうなこと言ってしまったし、まず謝らないと。意を決して口を開きかけた時、
「あの人形を……わざわざ母のために作ったわけではないと、美蘭から聞いた」
先に鷹士さんがその美しい唇を動かした。美蘭さんからすべての経緯を聞いているとは思っていたから、その言葉に驚きはしなかった。むしろ、また罪悪感で口の中が苦くなる。
「でも、あれは私が作った人形ですし、今回のこともあなたに相談できたのにしなかったのは、私の判断だから怒られて当然……」
「それでも俺が理不尽に責めた。あなたは反論してよかった。……いや、違うな。俺が悪い。あんな一方的に責められたら反論の余地もない。すまない」
「え?あ、頭上げてっ」
テーブルに付きそうなほど頭を下げる鷹士さんに焦る。だって、彼は何も知らなかった。私みたいな中途半端な関係性の人間が勝手なことをしたら、昨日の彼の反応は当たり前だし何も悪くない。全然謝らなくていい。