一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
***


「斎賀鷹士です。はじめまして」
真顔で自己紹介をする鷹士さんを見上げて明里ちゃんは丸く開けた口を動かす。
「は、はじめまして。山口明里です」
ぎこちなく明里ちゃんは返してから、こっそり私に耳打ちする。
「写真もやばかったけど、生王子威力半端ないなっ」
「あはは」
確かに。私はほぼ毎日見て慣れてはいるものの、鷹士さんの美貌を前にしたらほとんどの人が同じ感想になるだろう。今も往来する人のほとんどが鷹士さんを見ては通り過ぎていく。
今日はマルシェ開催日だ。私たちも店を出すのに、鷹士さんが手伝ってくれる。というのも、彼的に「また迷惑をかけたのだから、何かお詫びがしたい」ということだった。また高価なものを勧められる。それならば、直近で出店するマルシェの準備を手伝ってほしいと頼んだ。
当日に会場に荷物は郵送するのだけど、それまでの準備が意外と大変だったりする。商品やそれを入れる袋、名刺や差し入れをくれた人へのお返しなど細々したものが多い。ものによっては当日に忘れたら最悪な事態になりかねないからチェックリストを作って毎回確認しながらダンボールに入れていく。それを手伝ってもらったらいつもの倍以上早く済んだ。だからとっても嬉しかったのに、物足りないと言わんばかりに「他にも手伝う」と言って譲らなくて。当日も手伝ってくれることになった。
休日を返上させてしまうからいいと固辞したのだけれど、本人はこういう創作イベント自体に興味があるらしい。社会勉強として参加してみたいと言われたらそれ以上言えなかった。
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