一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「だから、鷹士とあなたの結婚ももう意味がない。藤原の紡績業を手に入れてアパレル事業が立ち直るまでの話だ。ここらへんで離婚してくれ」
「た、鷹士さんもそれを了承しているんですか?」
「まだ話していない。私と孫は仲がよくなくてね。私から進言しても、あいつは気が強く反発をすることもある。だから、あなたとの話し合いで穏便に進めてほしい。もちろん、離婚後は慰謝料として十分な金は渡す」
私の意見などないに等しいとばかりに淡々と話を進めていく様には不快だった。それでも口を閉ざすしかない自分がもどかしくて膝の上で拳を握る。
「なるべく早いほうがいい。こちらとの婚約を済ませたいから」
「はじめまして。私、鷹士さんの前の婚約者だった五木里香と申します」
私を見つめて大きな瞳が柔らかく笑む。肩まで伸びた赤みがかった黒髪を緩めに巻いていて、細くて華奢な首筋がまるで花のように可憐だ。上品なペールピンクのワンピースを着た彼女は、育ちのいいお嬢様を体現した人だった。
可愛い。自分と比較するのすら嫌になるほど。この人が前の婚約者だったなんて。ついさっきまで彼といい関係を築けていると浮かれていた分、冷や水を頭から被ったように身体の芯から冷えていく。
「鷹士さんも本来の形に戻るだけなので、そこまで反発されないと思いますけれど、会長から言われるより当人同士で話をしたほうが角が立たないと思います。もともと鷹士さんもこの結婚は一年限りと決めていたのでしょう?」
「あ……」
私と鷹士さんの契約内容。
どうしてふたりだけの秘密みたいに思っていたのだろう。、私だって明里ちゃんに話しているのだから、鷹士さんだって他の誰かに話をしていてもおかしくないのに。
他人からその話を聞いてショックを受けている自分の身勝手さに俯いた。
「今、鷹士さん出張で……いないので、少しお時間いただいてもいいですか?」
「もちろんです。ね、会長」
「ああ」
声を弾ませる五木さんに会長も柔らかな声音で答えている。私はじっと両手を握り締めてそれを開いた。手汗が滲んでいる手のひらに自分の爪痕が赤く残っている。
「何か食べるかい?」
「いいえ……体調も悪いので失礼します」
とてもじゃないけれど、この場にいたくなかった。……早く逃げたい。
「君は自分の名前の由来を知っているか?」
そそくさと席を立ち出口に向かうとそんな問いが投げられて足が止まる。
「え?」
会長へと振り向くと、私をじっと見つめた後に目を伏せた。
「鷹士の名前は父親が決めた」
「……失礼します」
声が掠れたけれど、頭を下げて足早に個室を出た。
「た、鷹士さんもそれを了承しているんですか?」
「まだ話していない。私と孫は仲がよくなくてね。私から進言しても、あいつは気が強く反発をすることもある。だから、あなたとの話し合いで穏便に進めてほしい。もちろん、離婚後は慰謝料として十分な金は渡す」
私の意見などないに等しいとばかりに淡々と話を進めていく様には不快だった。それでも口を閉ざすしかない自分がもどかしくて膝の上で拳を握る。
「なるべく早いほうがいい。こちらとの婚約を済ませたいから」
「はじめまして。私、鷹士さんの前の婚約者だった五木里香と申します」
私を見つめて大きな瞳が柔らかく笑む。肩まで伸びた赤みがかった黒髪を緩めに巻いていて、細くて華奢な首筋がまるで花のように可憐だ。上品なペールピンクのワンピースを着た彼女は、育ちのいいお嬢様を体現した人だった。
可愛い。自分と比較するのすら嫌になるほど。この人が前の婚約者だったなんて。ついさっきまで彼といい関係を築けていると浮かれていた分、冷や水を頭から被ったように身体の芯から冷えていく。
「鷹士さんも本来の形に戻るだけなので、そこまで反発されないと思いますけれど、会長から言われるより当人同士で話をしたほうが角が立たないと思います。もともと鷹士さんもこの結婚は一年限りと決めていたのでしょう?」
「あ……」
私と鷹士さんの契約内容。
どうしてふたりだけの秘密みたいに思っていたのだろう。、私だって明里ちゃんに話しているのだから、鷹士さんだって他の誰かに話をしていてもおかしくないのに。
他人からその話を聞いてショックを受けている自分の身勝手さに俯いた。
「今、鷹士さん出張で……いないので、少しお時間いただいてもいいですか?」
「もちろんです。ね、会長」
「ああ」
声を弾ませる五木さんに会長も柔らかな声音で答えている。私はじっと両手を握り締めてそれを開いた。手汗が滲んでいる手のひらに自分の爪痕が赤く残っている。
「何か食べるかい?」
「いいえ……体調も悪いので失礼します」
とてもじゃないけれど、この場にいたくなかった。……早く逃げたい。
「君は自分の名前の由来を知っているか?」
そそくさと席を立ち出口に向かうとそんな問いが投げられて足が止まる。
「え?」
会長へと振り向くと、私をじっと見つめた後に目を伏せた。
「鷹士の名前は父親が決めた」
「……失礼します」
声が掠れたけれど、頭を下げて足早に個室を出た。