一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
レストランを出たところで、真中さんが立っていた。ショックで足取りが覚束ない私にさっと歩み寄ってくる。
「お送りします」
「いいえ、ひとりで帰れます」
混乱する中でもそれだけははっきり言った。正直、今はひとりになりたい。でも、彼は首を横に振った。
「顔色が悪いですし、恩人をひとりで返すわけにはいきません」
「恩人?」
「私の娘からうさぎの服を直してもらったと聞きました」
「あ……」
パーティーの時にうさぎのぬいぐるみを抱えて泣いていた女の子が瞬時に頭に浮かぶ。あの子の父親だったのかと目を丸くしたら、眼鏡の奥の瞳が少しバツが悪そうに細められる。
「あの日、私は仕事でいけなかったのですが、娘はあなたのおかげてとても喜んでいました。ありがとうございます」
「いえ、応急措置しかできなくて」
「そんなのことありません。今もほとんどどこにいくにも連れていって。あのコサージュがお気に入りなんだと言っていました」
鷹士さんが選んでくれた服についていた青い花のコサージュ。ブランド店で着せ替え人形みたいになったことがほんの数週間前なのに、すごく遠いことのように思えてくる。あの頃はまだお互いビジネス上の関係で他人行儀だった。
「娘がまたあのお姉さんに会いたいと言っていて。私もお会いした時は娘のお礼をと決めていました。よろしければ、家まで送らせてください」
切実に申し出されたら、断るに断れなくなるのが私の弱点だった。
「じゃあ……お願いします」
呟くような声量で言えば、「ありがとうございます」とすごくにこやかな笑顔が返ってきた。
最初のビジネスライクな対応とは大違い。神経質だと思った印象も朗らかな笑顔に嘘みたいに消えていった。そこで私に嫌味を言ってきた夫人と顔立ちが少し似ていることに気づいて、一見冷たそうに見えたのはそのせいかと思った。
真中さんに地下に停めていた車まで誘導される。
助手席はまだ警戒心があって後部座席に乗った私に彼は特に何も表情に出さず、車を発進させた。
「お送りします」
「いいえ、ひとりで帰れます」
混乱する中でもそれだけははっきり言った。正直、今はひとりになりたい。でも、彼は首を横に振った。
「顔色が悪いですし、恩人をひとりで返すわけにはいきません」
「恩人?」
「私の娘からうさぎの服を直してもらったと聞きました」
「あ……」
パーティーの時にうさぎのぬいぐるみを抱えて泣いていた女の子が瞬時に頭に浮かぶ。あの子の父親だったのかと目を丸くしたら、眼鏡の奥の瞳が少しバツが悪そうに細められる。
「あの日、私は仕事でいけなかったのですが、娘はあなたのおかげてとても喜んでいました。ありがとうございます」
「いえ、応急措置しかできなくて」
「そんなのことありません。今もほとんどどこにいくにも連れていって。あのコサージュがお気に入りなんだと言っていました」
鷹士さんが選んでくれた服についていた青い花のコサージュ。ブランド店で着せ替え人形みたいになったことがほんの数週間前なのに、すごく遠いことのように思えてくる。あの頃はまだお互いビジネス上の関係で他人行儀だった。
「娘がまたあのお姉さんに会いたいと言っていて。私もお会いした時は娘のお礼をと決めていました。よろしければ、家まで送らせてください」
切実に申し出されたら、断るに断れなくなるのが私の弱点だった。
「じゃあ……お願いします」
呟くような声量で言えば、「ありがとうございます」とすごくにこやかな笑顔が返ってきた。
最初のビジネスライクな対応とは大違い。神経質だと思った印象も朗らかな笑顔に嘘みたいに消えていった。そこで私に嫌味を言ってきた夫人と顔立ちが少し似ていることに気づいて、一見冷たそうに見えたのはそのせいかと思った。
真中さんに地下に停めていた車まで誘導される。
助手席はまだ警戒心があって後部座席に乗った私に彼は特に何も表情に出さず、車を発進させた。