一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
明里ちゃん曰く、仮面夫婦とはいえ久しぶりに旦那に会うなら『綺麗にしなくちゃ』と部屋なり自分の身なりなりを整える心配をしたほうがいいとのこと。でも、それは相手に少しでも気に入ってもらおうとか好意がある場合じゃないかな?私の場合は相手がまったくこちらに興味がない。あのメッセージも半年以上ぶり。前の連絡は確か私の誕生日で、何か好きなものを買えというものだった。
その言葉に後押しされて新しいミシンを買った。いいロックミシンはそれなりに値がするからちょっと勇気がいったけど、いざ使うと性能の良さに感動した。海の向こうの旦那様にも一応そのことを伝えたら、渡していたクレジットカードを使ったのかと聞かれて、自分の貯金を使ったと返したら反応がなかった。仕事が忙しいのだろう。その中でも私の誕生日を覚えていたことには驚いた。
明里ちゃんの言うとおり、少しは気にしたほうがいいかな、
その日、よれてきたスウェットの上下を着た自分を姿見で確認したら、素直にそう思った。
久しぶりに会った女がみすぼらしいのは、政略とはいえ結婚したことを後悔したくなるかもしれない。それに、迎えるのにくたびれた姿では失礼だ。ここは彼のマンションで、居候的立場としては、家主の快適な空間にしておかなければならない。視界に入る私も最低限小綺麗にしなければ!
そこでタンスから去年初売りセールで買ったセーターとロングスカートを引っ張り出してきた。普段スカートなんて家では穿かないから若干居心地が悪いけど、だらけたスウェット姿より断然いい。
さぁ、いつでも帰ってこい!
そうして月曜日の夜。
まるで、敵を向かえる大将の気分で玄関を睨んだら、狙ったようにインターフォンが鳴って三センチほど跳ね上がった。心構えをしていたはずが、慌ただしくばたばたと足音を立てて玄関の施錠を解く。
開いた扉の先に現れたのは、高級な生地を仕立てた紺色のスーツ。ネクタイはブラックでシンプルなシルバーのタイピンにはアンバーのが一石輝いている。そこからゆっくり顔を上げたら、男らしい喉元が見えて、その上には締まった顎のライン。小さくも形の良い唇と高い鼻梁があり、透けると比喩できるほど白くきめ細かな肌には、私を見下ろすために伏し目がちになったブルネットゴールドの髪と同じ色の睫毛が影が作る。少し隠れた双眸は綺麗な青。少し前に過ぎ去った夏空がじっと私を見つめてくるからごくりと生唾を飲んだ。
「お……お久しぶりです」
言ってしまって違和感が全身を包む。
なんか違うな。普通の夫婦ではないにせよ、あまりにも他人行儀すぎる。いや、ほぼ他人のようなものだけれど、味気ない。せめて『おかえりなさい』と言うべきだった。
悔やみかけたら、鷹士さんは私を一瞥してから玄関に入りドアを閉めた。
「お久しぶりです。ただ、いくらこの階に他の部屋がないとはいえ、相手を確認せずに出るのはいささか物騒ですよ」
「あ、そ、そうですね。すみません」
「私が不在の間、何か変わったことはありましたか?」
その言葉に後押しされて新しいミシンを買った。いいロックミシンはそれなりに値がするからちょっと勇気がいったけど、いざ使うと性能の良さに感動した。海の向こうの旦那様にも一応そのことを伝えたら、渡していたクレジットカードを使ったのかと聞かれて、自分の貯金を使ったと返したら反応がなかった。仕事が忙しいのだろう。その中でも私の誕生日を覚えていたことには驚いた。
明里ちゃんの言うとおり、少しは気にしたほうがいいかな、
その日、よれてきたスウェットの上下を着た自分を姿見で確認したら、素直にそう思った。
久しぶりに会った女がみすぼらしいのは、政略とはいえ結婚したことを後悔したくなるかもしれない。それに、迎えるのにくたびれた姿では失礼だ。ここは彼のマンションで、居候的立場としては、家主の快適な空間にしておかなければならない。視界に入る私も最低限小綺麗にしなければ!
そこでタンスから去年初売りセールで買ったセーターとロングスカートを引っ張り出してきた。普段スカートなんて家では穿かないから若干居心地が悪いけど、だらけたスウェット姿より断然いい。
さぁ、いつでも帰ってこい!
そうして月曜日の夜。
まるで、敵を向かえる大将の気分で玄関を睨んだら、狙ったようにインターフォンが鳴って三センチほど跳ね上がった。心構えをしていたはずが、慌ただしくばたばたと足音を立てて玄関の施錠を解く。
開いた扉の先に現れたのは、高級な生地を仕立てた紺色のスーツ。ネクタイはブラックでシンプルなシルバーのタイピンにはアンバーのが一石輝いている。そこからゆっくり顔を上げたら、男らしい喉元が見えて、その上には締まった顎のライン。小さくも形の良い唇と高い鼻梁があり、透けると比喩できるほど白くきめ細かな肌には、私を見下ろすために伏し目がちになったブルネットゴールドの髪と同じ色の睫毛が影が作る。少し隠れた双眸は綺麗な青。少し前に過ぎ去った夏空がじっと私を見つめてくるからごくりと生唾を飲んだ。
「お……お久しぶりです」
言ってしまって違和感が全身を包む。
なんか違うな。普通の夫婦ではないにせよ、あまりにも他人行儀すぎる。いや、ほぼ他人のようなものだけれど、味気ない。せめて『おかえりなさい』と言うべきだった。
悔やみかけたら、鷹士さんは私を一瞥してから玄関に入りドアを閉めた。
「お久しぶりです。ただ、いくらこの階に他の部屋がないとはいえ、相手を確認せずに出るのはいささか物騒ですよ」
「あ、そ、そうですね。すみません」
「私が不在の間、何か変わったことはありましたか?」