一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
鷹士さんは問いかけながら上質な光沢を放つ靴を脱ぎ始める。私は一拍考えた後に首を横に振った。
「いえ、特には」
「それならよかった。来期でうちの会社の会長が退任するのを機にこちらに呼び戻されました」
「そうですか」
なんか大変そう。
小学生の感想しか湧いてこなくて、相槌を打つに留まった。彼の仕事内容を知らない私の言葉はあまりにも薄っぺらい。
上がり框に置いていたスリッパを履いた鷹士さんを見て我に返る。玄関でいつまでも話しているわけにはいかない。
「あ、ごはんは……」
「食べてきたので大丈夫です。あと、私のことはあまり気を遣わなくていいので」
「そうですか」
また同じ台詞を繰り返す。まぁそうだと思っていたから碌なものを用意していない。私が晩ご飯に食べた焼き鮭と煮物の残りだ。せめて、荷物くらいは持とうかと伸ばしかけた手を彼は制止した。
「自分で運びます。初めに交わしたとおり、私が受け持つ仕事が軌道に乗るまでの婚姻ですから」
「うまくいきそうですか?」
「はい。藤原と合併したアパレル部門も立て直しの目処がつきました。離婚も約束の一年を目処でいけそうですが、お義母さまの容態を見て決めましょう」
そう、私たちは政略結婚だが、離婚前提の契約をした。
これはふたりだけの秘密。
斎賀の会社のアパレル部門が伸び悩み、藤原の紡績業のルートが欲しい。藤原は紡績業だけでは売上げが低迷していて、ちょうど資金繰りに困っていた。ふたつの会社にとっていい話だった。斎賀の中にでは、アパレル部門を切り売りしろという意見もあったのが、会社設立当初からある部門を売るというのも簡単にできない。対外的に斎賀が弱っていると見えかねないからだ。その上で藤原と組めばなんとか持ち直せると算段が出た。
彼もこの条件を呑んだのは、会社にとってベストな道だったからだろう。鷹士さんは理路整然と物事を俯瞰して考える人だと、会って少し話しただけでもわかるくらい冷静だった。
「いえ、特には」
「それならよかった。来期でうちの会社の会長が退任するのを機にこちらに呼び戻されました」
「そうですか」
なんか大変そう。
小学生の感想しか湧いてこなくて、相槌を打つに留まった。彼の仕事内容を知らない私の言葉はあまりにも薄っぺらい。
上がり框に置いていたスリッパを履いた鷹士さんを見て我に返る。玄関でいつまでも話しているわけにはいかない。
「あ、ごはんは……」
「食べてきたので大丈夫です。あと、私のことはあまり気を遣わなくていいので」
「そうですか」
また同じ台詞を繰り返す。まぁそうだと思っていたから碌なものを用意していない。私が晩ご飯に食べた焼き鮭と煮物の残りだ。せめて、荷物くらいは持とうかと伸ばしかけた手を彼は制止した。
「自分で運びます。初めに交わしたとおり、私が受け持つ仕事が軌道に乗るまでの婚姻ですから」
「うまくいきそうですか?」
「はい。藤原と合併したアパレル部門も立て直しの目処がつきました。離婚も約束の一年を目処でいけそうですが、お義母さまの容態を見て決めましょう」
そう、私たちは政略結婚だが、離婚前提の契約をした。
これはふたりだけの秘密。
斎賀の会社のアパレル部門が伸び悩み、藤原の紡績業のルートが欲しい。藤原は紡績業だけでは売上げが低迷していて、ちょうど資金繰りに困っていた。ふたつの会社にとっていい話だった。斎賀の中にでは、アパレル部門を切り売りしろという意見もあったのが、会社設立当初からある部門を売るというのも簡単にできない。対外的に斎賀が弱っていると見えかねないからだ。その上で藤原と組めばなんとか持ち直せると算段が出た。
彼もこの条件を呑んだのは、会社にとってベストな道だったからだろう。鷹士さんは理路整然と物事を俯瞰して考える人だと、会って少し話しただけでもわかるくらい冷静だった。