一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
車が地上に出て、順調にマンションまでの道のりを走っていた時、ふと真中さんが口を開く。
「鷹士くんは、前の婚約者とさほど深く付き合ってはいませんでした。一度顔合わせした程度で、彼は海外勤務になったので」
「え?」
「これでも、私と彼は同じ中高に通っていたよしみで今も交流があるんです。会社では仕事上の立場でしか話しませんが」
「そ、そうなんですか?」
「はい。鷹士くんは同じ部活の後輩でした。親戚の中では彼のほうが本家で立場は上でしたが、学校では普通にしてほしいと鷹士くんから言ってきて。私としては偉そうに先輩面できてよかったです」
懐古して目を細める真中さんがルームミラーに映った。私が知らない彼の話に少し身を乗り出す。
「何の部活ですか?」
「弓道です。彼は全国大会にも行ったので、かなりすごかったですよ。狙った的は外さないという感じで、名前にちなんで『鷹の目』って周囲から言われるほどで。でも、大学からは海外で、辞めてしまってもったいないとすら思いました」
「弓道……」
似合いすぎる。
異国を思わせる髪色と瞳も、道着を着た彼は相変わらず凛々しく似合っていて、弓を構えた姿を想像しただけでも空気が研ぎ澄まされていた。
「昔から私の母親は鷹士くんと彼の母親を目の敵のようにしていましたが、父はそこまで興味もなくて。私も彼に罪がないのはわかっていました。この前も母があなたたちに無礼な真似をしたらしく、本当に申し訳ありません。鷹士くんから言われて、私もきつく言っておきました」
「鷹士さんがわざわざ言ったんですか?」
「はい、かなり怒っていました」
あの場で収めた激昂が真中さんに向かったのかとハラハラしたけれど、ハンドルを握る彼はむしろ笑顔だった。
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