一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「大人になって物事の捉え方がドライになってくるものですが、久しぶりに感情を隠さない鷹士くんに驚きましたけど、同時に嬉しくなりました。怒ることは疲れますし、効率がいいわけではないですからね。本当に譲れないものができたんだなと」
ここまで話した真中さんはゆっくりとブレーキを踏む。マンションの前だった。彼はサイドブレーキをかけると、ゆっくり私を振り返る。
「だから、あいつを信じてやってください」
「……ありがとうございます」
私は曖昧な笑みで濁した。
鷹士さんが優柔不断だとか、薄情だとか思ったことはない。今回も私が彼の正式な妻になると言えば、会長と話をしてなんとかしてくれるだろう。でも、他に問題が出てきた。
私の名前の由来。昔、母から「鳥の名前にしたのは、大切な人と約束していたから」と聞いたことがあった。小学校低学年くらいの私は「大切?」と聞き返した。母は笑って「愛してるってことね」と私の頭を撫でた。その時は、大して気にも留めなかった。きっとその相手か父親なんだろうと疑いもしなかったから。
ただ、これが父との約束なら「お父さんと」と言うはずじゃないか?偶然にも、昔の婚約者が自分の子供に『鷹』という文字を使った。母と仲はよかったみたいだし、今も斎賀から金の援助をしてくれている。
否が応でも、信じたくないひとつの可能性が浮かんでくる。
私の父親は生まれてすぐに亡くなった。写真は見たことがあるけれど、私が生まれてからのものは数枚しかなかった。
もし、母が家を出る前に鷹士さんの父親と関係があったら?相手に他に好きな相手ができたと知った時に妊娠が発覚して、誰にも言わずに家を出たのだとしたら。
その場合は、鷹士さんと私は異母兄弟になる。
会長の言葉と眼差しの意味がすべて繋がる。多分、鷹士さんの父親は知らない。私への接し方や鷹士さんのことを大切にしている様子から知らないと思う……。そうでなければ、契約とはいえ異母兄弟が結婚することに抵抗もないサイコパスだ。
事情を知る会長はそうなるけれど、当初の目的の黒字回復を達成した今は何としてでも早く別れさせたい様子だ。去り際に私に名前の由来の話を振ったのは、鷹士さんが私に情を持っていても、私から別れるしかないと言わせるためにだろう。
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