一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
マンションに入ってからも考えは纏まらない。むしろ、真中さんから聞いた話でさらに気持ちがぐらぐらになっている。
「どうしよ……」
一緒にはなれない関係かもしれないのに。
鷹士さんに相談しようにも今はだめだ。仕事で忙しくしているところに、水を差すわけにはいかない。電話でこんな複雑な話をしても悶々とさせるだけだ。彼が父親に連絡して真相を追求してもすぐに答えが出るとも限らない。下手に父子の間をぎくしゃくさせるだけだ。鷹士さんの父親が私の出自を知らなければ尚更。すべては私の母に確認するのが一番
早い。でも、それが怖い。私が想像した真実だった後は……どうすればいいんだろう。答えが出ていないのに安易に動けない。
鷹士さんは母親からの愛情がもらえない環境だった。その分を父親が必死に埋めようとしてくれていたから、父子間は絆が深い。
そもそも、私と異母兄弟だろうがなんだろうが、もうこの結婚の意味はない。だから、下手に真相を追求するより穏便に別れたほうがいいのかもしれない。鷹士さんも父親と溝を生むこともなく、会社のためにもなる。私は父親が誰であろうとあまり興味が湧かないのは昔からいなかったから。母の病が治り日常生活に戻れたらいい。私たちが別れたら母にも心労をかけなくて済む。
鷹士さんは私と一緒にいてまったくメリットがない。むしろ、共にいて被るマイナスのほうが絶対的に大きい。
「だめだ。そばにいないほうがいい」
自分に言い聞かせるように声に出す。でも、胸の痞えがなくなるわけがなく、じんわりと瞼が熱くなった。
私はリビングのソファに崩れるように座った。
荷物の整理したほうがいいのに身体が動かない。
家出した時と同じようにパッキングすればいい。荷物は少ないから時間はかからない。それから、明日帰ってきた鷹士さんに話して、離婚する日を決める。
頭では冷静に手順が流れていくけれど、気持ちが追い付かない。ここにいたいとばかりに身体から根が這ったみたいだ。
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