一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
嗚咽を殺すために彼が私の顔を上に向かせる。
「何がだめなんだ。会社や親戚のことなら俺が全部なんとかする」
嘘偽りない言葉。実際、彼は実行するだろう。でも、問題はそこが不安なんじゃない。
「私たち、異母兄弟かもしれない」
「……その根拠は?」
一度小さく息を呑んでから、鷹士さんは問う。
口調は冷静さを保っていたけど、声音に緊張が滲んでいる。
「名前。私の母親は愛してる人との約束で鳥の名前にしたって。今日、会長から自分の名前の由来を知っているかって訊かれたの。それで、鷹士さんの名前は父親がつけたって」
「……」
私の言葉の後、鷹士さんは黙っていた。目を伏せて静かに佇む。部屋に重い沈黙が満ちていって、時間の流れが遅く感じる。
やがて、鷹士さんは目を開けた。迷いがないそのクリアブルーの瞳が窓から差し込む夕日を帯びて光る。
「行くぞ」
「どこに?」
「直に訊きにいく。想像しているだけでは埒が明かない」
そのとおり。
これはあくまで私の予測。だから、親に確かめるほうがいい。でも、もし本当に血が繋がっていたら……。
怖くて目を瞑りかけたら、ぎゅっと手を握られた。彼を見上げたら、真摯な眼差しが私に降り注ぐ。
「言っておくが、どんな結果でも俺はあなたを離すつもりはないから」
静まった部屋にその言葉が力強く響いて胸が熱くなる。私は涙を堪えて深く頷き、手を握り返した。
もう覚悟は決めた。どんな結果でも、私は彼と一緒にいる。

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