彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 「頑固者って私のこと?失礼ね!」

 玲さんは返事をする代わりに、私の手をぎゅっとまた握りなおした。佐田君は私の手が彼に握られているのを見てため息をついた。

 「すでに少し出遅れてるのは認識しました。じゃあ、失礼します」

 「佐田君、ありがとう。ごめんね」

 佐田君は苦笑いを浮かべ、手を挙げた。

 そして二人は頭を下げて別れた。私は玲さんに手をひきづられて歩いた。

 スーツ姿の彼はやはり素敵だ。久しぶりに彼の手の大きさを感じていると、ぎゅっと引っ張られて、路地の間に押し込まれた。

「琴乃」

 壁際に私を追い詰めると、彼は私を抱きしめて突然口づけした。

「あ……ん!あ……」

 一年半ぶりの口づけは優しく、柔らかく押し付けるようだったが、最後には口を割るようにしてすぐに離れた。

 私は彼の唇を追いかけるようにしてしまい、目を開けた瞬間、待ち構えたような彼の目に捕らえられた。

「そんな目をして……もっとほしい?これで琴乃の気持ちはわかった。でもこの口から本心を言ってくれるまでおあずけだ」

「!」

 するとグーっとお腹が鳴った。真っ赤になった私を見て、彼は優しく私の頭を撫でた。

「色気より食い気だな。とりあえず食事をしようか。僕もキスしてほっとした。お腹がすいたよ」

「ちょっと、玲さん、何を言って……」

「あそこのレストランに入ろう」

 路地を出たところにレストランがあった。向かい合って座る。

「琴乃。今更だが、謝りたい。すまなかった」

「玲さん」

「君に連絡が遅れて心配をかけたこと、君の周りの状況も確認せず本当にうかつだった。反省している。お母さんのことだけど、弦也君に聞いて本当に驚いた。今の具合はどう?」

「言いづらいですが、玲さんと別れたと報告してから、大分落ち着きました。不安が取り除かれたんじゃないかと先生にも言われました」

「そうか。僕の一年間の我慢もそれなら報われる。お母さんのためにも僕と連絡を絶つことは必要だったのかもしれないと気づいたんだ。病状が落ち着いたならほっとしたよ」

「……」
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