彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「まさか引っ越すだけじゃなく、蓮見ロジスティックスを辞めるとは思っていなかった。そのせいで君を探すのに手間取った」

「そうでしょうね」

「君の作戦だったの?」

「いいえ。入院費や病院との距離、住宅手当の問題もあって、話し合ったけど辞めるしかなかったんです。結果的に玲さんからうまく隠れることが出来たんですね」

 食事が運ばれてきた。私達は黙ったまま食事をした。最後にコーヒーを飲みながら彼は意を決したように話し出した。

「もうひとつ大事なことを聞かせてほしい」

「なんですか?」

「僕と話す前に日奈と会っただろう。里香が謝ってきた。その時何を言われた?」

「日奈さんからは謝られました。彼女は美人なだけじゃなく、率直で素敵な方ですね。私は玲さんを信じていましたが、あなたから釈明の連絡が二日経ってもなかった。母の発作も決定的でした。彼女と会って別れを決めたんです」

「やはりそうだったんだな。連絡が遅れたのは外務省の意図もあったんだ。報道を隠されていた。本当にすまなかった。その後もきちんとフォローできなかった」

「出張でお仕事だったんですよね。わかっています。あやまらないでいいんです」

 彼は目の前の席から私の横に来た。そして、私の手を握ると言い始めた。

「聞いてほしい。日奈は過去で、偶然仕事相手になっただけだ。それにハロッズで参事官に会ったときにはすでに僕は君に夢中だった。どうやって君を落とすかで頭がいっぱいだったんだ」

 玲さんは恥ずかしそうに話した。嘘ではないとわかる。

 私もあのとき日奈さんのことを知りたかったが、聞く勇気がなかった。

 彼との関係を崩したくないと思った。私も彼に惹かれていた。

「責めるつもりはないんです。もう、過去のことです。私は母のこともあり、身を引いた方が全てうまくいくと思いました」

「身を引くって何?何がうまくいくんだ?」
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