彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 黒髪の背の高い男性だった。日本語だったし、おそらく日本人だろう。

 ストライプの襟付きのシャツにジーンズという軽装だった。このツアーに参加していたのかもしれない。
 
 彼の顔よりも、された目くばせに既視感があった。私を助けてくれたんだとピンと来た。

 すぐに彼を見て微笑みながら答えた。

「はい、行きましょう」

 彼は私の背中をそっと押してその場を離れた。

「あの……ありがとうございました」

「いや、君、ちょっと無防備だったからね。お役に立てて良かった」

 外の通りに出てから、立ち止まると彼に向って頭を下げた。彼と顔を見合わせる。

「「……あ!」」

 あの既視感は間違いなかった。

「君、もしかして……日本のスワンホテルでセミナーの時に会ったよね?」

 本部長にセクハラされたとき助けてくれた人だった。

 ホテルのロビーでは顔を正面から見てなかったので気づかなかったが、横顔に見覚えがある。鼻筋が通ったイケメン。そして怜悧な一重の目。

 忘れもしない、あのときも今みたいに目くばせをして、私をその場から逃がしてくれた。

「そうです!あの時は助けて頂いて本当にありがとうございました。あの時の女性の上司の方はお元気ですか?よろしくお伝えください」

「は?女性の上司?」

「あのあと、あなたの上司だという女性が本部長はセクハラの常習犯に見えるから、きちんと自分を守るために会社へ告発しろって助言してくれたんです」

「あはは、そうだったんだ……木下さんらしいね……それで君は告発したの?」

「あ、はい。戻って上司にようやく勇気を出して伝えました」

「そうか、それはよかった。でも君が告発しなくても、僕が蓮見商事の知り合いに少し話しておいたんだ。だから処分はすぐにおりる。君の今後に心配はいらないよ」

「どなたかとお知り合いなんですか?」

「仕事上、蓮見商事本社に知り合いがいるんだ。それにしても君、セクハラされたのには理由があるかもしれないな。さっき見ていたけどちょっと隙がありすぎる。まずは髪をおろしたほうがいいよ。白いうなじが見えてちょっとセクシーだ」
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