彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「ちょ、ちょっと玲さん……」

「静かに。動かないで、琴乃」

 彼はホックを止めると、背中を抱いて後ろから鏡に映る私を見つめた。

「どうですか?」

「すごく綺麗だ」

 背中を鏡に向ける。背中はほとんど見えない。刺繍が浮き上がって見えて、思ったより清楚でとても素敵だ。
 
「じゃあ、これにします」

 返事がない。後ろを向いて彼に確認した。

「玲さん?」

「はー……」

「やっぱり大人っぽいから、似合わないですか?」

 彼は両手で自分の顔を覆った。ぶつぶつと言い出した。

「そうじゃない。後ろから見ると色気が……。パーティー中は仕事もあるから、君にずっとついていられない可能性もあるんだ。こんなドレスを着せたら、絶対誰かに声をかけられる。心配でおちおち仕事もしていられない……」

「玲さんったら……買いかぶりすぎです。日奈さんのような綺麗な女優さんがたくさんいらしているんなら、私なんてただの雑草です。皆さんの目はそちらへに釘付けになりますから安心して」

 彼が私を後ろからふんわりと抱きしめた。そして首筋の髪を避けるとチュッとキスをした。

「あ……だめです」

「これくらい許してくれ」

 彼はそう言うと、そっと出て行った。
< 120 / 131 >

この作品をシェア

pagetop