彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「あ、はい。蔵原琴乃といいます。ご存じかもしれませんが、蓮見ロジスティックスに勤めています。あの、あなたのお名前を教えて頂いてもいいですか?」

「ああ、ごめん」

 カバンから彼は名刺入れを出して一枚私に向けて机に置いた。藤堂玲と書いてあった。

「わー、本当にイギリス大使館の書記官さんだったんですね」

「嘘だと思ったの?そんなわけないじゃないか。大体あのパーティーは外務省が計画したものなんだよ」

 そういえば、外務省が招待先を選んでいると聞いていた。今回は蓮見商事から頼まれて本部長が出席したのだ。

「蔵原さんはいくつなの?」

「私ですか?25です。あの藤堂さんは?」

「僕は28だよ」

 この間はもう少し上に見えたが、今日は年相応に見える。やはり服装や雰囲気が違うからかもしれない。

「君もあそこにいたってことは、今現在テニスをやっているか、経験者とかかな?」

「はい。中学、高校とやってました」

「そう。僕も昔テニスをやっていたことがあるから、イギリスに来たらウインブルドンは見たかったんだ」

「わかります。テニスをやる人にとってはウインブルドンは聖地ですよね」

「ウインブルドン選手権開催中はすごい人だし、なかなかチケットも取れないから違う時期の方がすいているだろうと思ったけど、今日もすごい人だったね。驚いたよ」

「そうですね」

「でもこんなんじゃ、大会中は身動きできないくらいの人だろうね」

「そうでしょうね。期間中はチケットも、ホテルも値段が高いから来られないですけどね」

「その通りだよ。住んでいたってなかなか来られない。でも今日のツアーでの説明は面白かったし、十分雰囲気は堪能できた」
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