彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「藤堂君じゃないか?」

 後ろから声がかかり、私達は振り向いた。そこには壮年の男性と奥様らしき女性が立っていた。

「野原参事官、奥様」

 ガタンと音を立てて彼が立ちあがった。男性は偉い人なのだろう、威厳があった。

 隣の奥様と言われた女性は柔らかい笑顔で藤堂さんに会釈をした。

「藤堂君は今週確か夏休みだったよな。よりによってこんなところで会うなんて驚いたな。失礼、そちらの女性は?」

 参事官と奥様が私を見た。

「あ……」

 すると遮るように彼が答えた。

「彼女は昨日結婚式で出会った友人です。明日までこちらにいるそうなので、今日は僕が観光案内していたところです」

「はじめまして……」

 私は立ち上がって頭を下げた。

「ああ、そうだったのか。いや、失礼。あさってから日奈さんも来る。僕が言うまでもないけど、文化親善大使の彼女を頼むぞ。君ならだれよりも彼女を知っているはずだからね」

 藤堂さんの肩を軽くたたいて意味深に参事官は笑った。藤堂さんは困ったようにうなずいた。

「はい、わかりました……」

「せっかくのところを邪魔して悪かったね。それじゃあ、また……」

「失礼します」

 彼は綺麗に一礼した。私も立ち上がったままもう一度頭を下げた。そうすべき立場の人なんだと彼が身をもって教えていると感じたからだった。

「……ごめん」

 彼は座って私が腰かけるのを見た。

「いいえ、お仕事の関係の偉い方ですか?」
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