彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「あなた、大丈夫だった?」

 びっくりして振り向くと、そこにはショートカットにピアスが光る、ベージュのパンツスーツのカッコいい50代くらいの女性が立っていた。

「先ほどの上司、セクハラ常習犯でしょう。あれは大変ね……今は私の部下が庇ってなんとかなったけど、こういうことはきちんと対処しないとだめよ。会社に報告したほうがいいわ」

「そう、ですね……」

「女性の先輩からの助言よ。自分を大切にしなさい」

「はい。ありがとうございます」

 * * *

 会社に戻ると、偶然ロッカーで同僚の佳純に会った。彼女には、本部長のセクハラを報告して相談していた。

「うわあ、気持ち悪い。無事でよかったね琴乃。だから言ったじゃない、絶対部長に相談したほうがいいよ」

「うん。今日はもう灰原部長に報告する。実はね、ホテルでそれを見ていた年上の女性がいて、会社に報告しなさいって言われたの」

「そうだよ、絶対担当外れた方がいい」

「相談してみる」

 庶務担当になってから、最初の数か月は何もなかった。

 さすがに今日の様に手を握られたことはなかったが、妙に距離が近かったり、背中を触られたことがここ最近になってあった。

 セクハラかもしれないと実感するようになり、警戒していた矢先だった。

「それは大変だったね……気がつかなくてすまなかった」

 灰原部長に相談すると頭を下げられた。

「部長が悪いわけではないです……でも私、もう本部長の庶務を離れたいです……」

「わかった。本部長の庶務は高木君にするよ。本部長は女性を希望しているからごねるかもしれないけどなんとかしてみる」

「すみません。それと部長、私来週から一週間休みを頂く予定です」

「ああ、そういえば本部長も明日から出張だし、それに合わせて休む予定だったよな。海外旅行に行くんだっけ?弟さんは大丈夫なのかい?」

「ええ。その間はちょうど部活の合宿なんです。母のことが少し心配なんですけど……」

「本当に大変だね。お母さんは相変わらず?」

「そうですね、でも症状が悪くなっているわけではないのでまだ安心なんです」
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