彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 三年先輩の高木さんが私を見ながら隣の課から歩いてきた。

「蔵原お前……本部長がいなくなったからよかったようなものの、いたらどうしてくれる?本部長って女子社員には甘いが、俺らのような若い男の社員にはきっついんだぞ。部長から庶務頼まれた時、転職しようかと思った」

「えー!そ、そんな……」

 すると、田沼さんが立ち上がって高木さんの前に仁王立ちした。

「よくそんなことが言えますね。蔵原さんがセクハラされていたのを高木さん知ってたでしょ?知らんぷりしておいて、それでも先輩なんですか?」

 田沼さんが眼鏡のふちを持ち上げて高木さんをにらんだ。高木さんは驚いたようで、ごくりとつばを飲み込んだ。

「あ、いや……セクハラとかは現行犯逮捕じゃないとダメなんだよ。それに、俺みたいな下っ端が何をいったところで所詮……いやその、悪かったよ。じゃあな」

 そう言うと、そそくさと逃げて行った。

「ほんっと、サイテー。転職したくなるのはこっちだっていうの!」

「田沼さん……」

「まあ、本部長が突然いなくなったのはセクハラ案件のせいですよね?よかったですね。先輩は優しいから、告発して本部長と顔合わせるのは大変だろうと少し心配してたんです」

「確かにそうだよね。あの時は告発することしか頭になくて、その後のことまで頭が回ってなかった。庶務を離れられればいいぐらいにしか考えてなかった」

「まあ、神様がいたんじゃないですか?耐え続けた先輩に、ご褒美で海外旅行と今後の安定をくれたんですよ」

「なにそれ?」

「「あはは」」

 確かに目の前の仕事だけになったので、楽にはなった。
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