彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「もうだめ、ねえ、お腹すいた」

「そうだな。何時だろう?」

「もう5時だわ!」

 彼は私を抱き寄せた。

「君のせいだ、琴乃。あんなに欲しがったくせに、僕一人のせいにするな」

「言わないで」

「ああ、離れたくない。どこにも行きたくない」

「玲さん。とりあえず、初詣に行きましょう」

「そうだな」

 夜なのに列が並んでいて、ようやくお参りをした。

「そんなに長く頭を下げていて、いったい何を願ったんだい?」

「……色々です。玲さんは?」

 彼は茶目っ気のある瞳を輝かせてこちらを見た。

「それはもちろん、早くこっち勤務になって毎晩琴乃と……いてっ!」

 私が彼の腕をつねったら、私の手をとり上げて握った。

「もう、そんなことばっかり言ってると嫌いになるから」

「あ、そう。嫌いとか言って、僕をそんな目で見てるくせに……」

 私は目を反らした。

「自覚があるんだろ?駅で僕に抱きついてきたのはどこの誰かな?」

「もう、嫌い」

 私が手を離そうとすると、両手で抱きしめられた。

「ほら、静かに。大きな声を出すと見られるぞ」

 木陰に入り、彼にキスされた。暗がりで本堂の方に背を向けている。彼に抱きしめられて食べられてしまいそうだった。
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