彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「もう、そんなことばっかり言ってると嫌いになるから」

「あ、そう。嫌いとか言って、僕をそんな目で見てるくせに……自覚があるんだろ?駅で僕に抱きついてきたのはどこの誰かな?」

「もう、嫌い」

 私が手を離そうとすると、両手で抱きしめられた。

「ほら、静かに。大きな声を出すと見られるぞ」

 木陰に入り、また唇を覆われる。自分から彼に身体を寄せ、むさぼり合うようにキスをした。

 この恋は夢。見ている間は幸せだ。

 だが、覚めるときがそう遠くないことに気づいた琴乃は、今のうちだけ夢の中にいたかった。

 * * *

 近くの店にふたりで入った。

「玲さん、これ少し早いけど誕生日プレゼント」

 私は彼の眼の前に箱を出した。

「何?え、本当に?」

 彼は包装を開けて、こちらを見た。

「これ、うわ、僕の好きなブランドだ」

 普段使いが出来るシャツだった。以前、イギリスで彼が来ていたブランド。

 こういうものが好きなんだろうと思ったので、最近のデザインのものを二枚買って来た。

「着てくれる?」

「もちろんだよ。ありがとう。僕のことよく見てるんだね」

「そんなこともない。気に入ってくれるか心配だったの」

「気に入るよ。お互い服を贈りあってるな」

「玲さんからは指輪も、お洋服も、それ以外ももらってる。結局、何も返せてない」

「将来沢山返してもらうから覚悟して。そう遠くないと思う」

「え?」

「早ければ来年戻るかもしれないんだ」

「そうなの?」

「ああ、予定より早まりそうなんだ」

「どうしよう……」

「どうしようってなんだ?帰ってきたらまずいのか?」
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