彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 彼女はこくんと頷いた。私はホッとしてため息をついた。

「でも、私は……玲とよりを戻したいんです」

「……え?」

「知っているかわからないけど、デビュー直前まで玲と交際してました。事務所に交際を止められてやむなく別れました。でも今なら大丈夫。玲には会う度に気持ちを伝えてきました。でも、あなたがいると断られていたの」

 最後の言葉にほっとした。やはり、事実じゃなかったなら大騒ぎしなくてよかった。

「そう、ですか……私も日奈さんのことは少しだけ知っていました。私が最初にイギリスへ行ったとき、日奈さんがイギリスに翌日来るので案内をすると聞いていました」

「そう。私が元カノだと知っていました?」

「彼からは聞いてませんでしたが、里香さんから教えてもらっていました」

「玲は私の海外での活動や、文化親善大使としての役割を全うできるよう助けてくれています。カンヌの受賞も彼や外務省のお陰です。玲は私をよく知っているから、とても気持ちよく仕事をさせてくれるの」

「カンヌ受賞おめでとうございます」

「ありがとう。言いづらいんだけど、彼からあなたに記事のことで連絡がないのは、私と同じ気持ちなのかもしれないわ。それに、外務省は私達によりを戻してほしいと前から言っている。彼の上司も私との交際を後押ししてくれているの」

「でも、玲さんの気持ちを聞いていません。忙しくて連絡がもらえないこともあるので、そのせいかもしれないと思っているんです」

「そうかしら?もし蔵原さんは彼と結婚したら、玲が外交官として海外赴任するのに同行できるの?」

「それはまだわかりません……」

「私は彼と大学時代から同窓で、英語やフランス語、イタリア語も少しわかるの。私達はお互いを高め合っていけるって学生時代に話していた。その頃から、彼は外交官を目指していた。私は国際派の女優を目指していた。お互い目標に到達したところなの」

 彼女の目力とその言葉の強さに言い返せなかった。

「少し耳にしたのだけど、ご家族が交際に反対なさっているのだとか……大丈夫なの?」

 驚いた。
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