彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 これはなんだ?一体なぜこうなった?記事は二日前ということは、イギリスでも大使らは知っているはずだ。

 僕の仕事に支障が出ないように、何も伝えてこなかったんだと気づいた。

 僕はとにかく急いで日奈に電話をした。訂正させなければならないと理性がどこかへ飛んでいた。日本の時間などまるで考えていなかった。すると、真夜中にも関わらず、マネージャーという男性が電話に出た。

「悪いけど、日奈は今新しいドラマの撮影中です。今日は朝方までかかるから話せないですよ」

「彼女の僕に関する記事を初めて見たんですけど、これはどういうことですか?否定してくれたんですよね?」

「え?今更ですか?その記事は二日前には出てましたよ。日奈も忙しかったですけど、あなたから何も言ってきてないというから、あなたも同意なんだと僕らは思ってました。だから否定なんてしてませんよ。というか、日奈のあなたへの気持ちは前からご存じだったでしょう?」

「ふざけるな!こっちの意思を確認しないでこんな記事を許すなんて、訴えてやる」

「まあ、落ち着いて。訴えたらあなたの名前も、顔もさらされますよ。今はまだあなたの名前はイニシャルだけだ。それに外務省からもあなたのプライベートをさらすなと記者は厳命されてますからね。でも外務省の上司は日奈とあなたがうまくいってほしいみたいですけどね。自分から、しかけないほうが無難だと思いますよ」

「……!」

「ああ、すみません。ちょっと忙しいので切りますね。日奈には言っておきます」

 ブチリと電話が切れた。怒りで頭が沸騰しそうだった。

 すると、ホテルの部屋にイギリスから野原参事官が訪ねてきた。最終日のパーティーに彼は参加するのだ。

「やあ、藤堂君。遅くなった。会議お疲れ様。どうしたそんな顔して」

「参事官。原口日奈の記事、知っていたんですよね」

「……まあ、座らないか」

 彼は僕を座らせると、チェストにあるお酒を少し注いで僕の前に置いた。

「落ち着いたほうがいい。少し飲むんだ」

 僕はグラスをあおった。参事官も自分のグラスを持ってきて目の前に座った。そして空いた僕のグラスにさらにお酒を入れた。
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