彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「それと玲さんと話すのはこれが最後です。僕も姉さんのように今後着拒させてもらいます。よろしくお願いします」

「弦也君、ちょっと待って……」

 プツリと電話は切れた。

 僕はテーブルに両手で頭を突っ伏した。

「あああ、僕は大馬鹿だ。何をやっているんだ!」

 琴乃が、彼女が、僕に別れを告げた理由がわかった。僕は本当に馬鹿だ。

 彼女が何より大切にしていた家族。お父さんが亡くなられてから、琴乃はお母さんと弦也君の為に、自分を犠牲に生きてきたと彼女の親友が話していたことを思いだした。

 僕は琴乃の信用をすでにあのとき失っていた……だから彼女は何も話してくれなかった。

 僕はショックでしばらく抜け殻になった。

 周りは異動が延期になり本当に気の毒だと慰めたが、そんなことが理由ではなかった。

 琴乃との決別が僕に与えた傷は大きかった。帰国が決まった数か月前、エンゲージリングを内緒で頼んでいたのだ。出来上がったと連絡が来た時のショックは言い表せないほどだった。

 だが、僕は仕事を投げ捨て自暴自棄になることも許されなかった。近いうちに大きなヨーロッパの経済会議も予定されていたため、ここ数年で一番忙しくなった。

 ある意味、仕事のお陰で忘れることが出来た。あまりに疲れていて帰ると泥のように寝てしまう。酒ばかり飲んで、体重がかなり落ちた。目が鋭くなり、周りは腫物を触るように僕と付き合うようになった。

 忙しさが一段落したころ、久しぶりに妹から連絡が来た。家族に琴乃から別れを告げられたと先日伝えたばかりだった。

「日奈さんとはやっぱりだめだったんだね。それなのに、どうして琴乃さんはお兄ちゃんと別れたの?家族にやっぱり反対されたの?」

 日奈は僕の帰国が記事のせいで延期になったことを知り、謝ってきた。琴乃とのことも聞かれたが、別れたと告げた。

 やり直そうと言われたが、僕は琴乃を諦めていないし、こんなことになったきっかけの君とつきあうことは一生ないだろうとはっきり伝えた。

 それ以降、日奈からは連絡がなかった。
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