花かげに咲く、ひとひらの恋
そして、後宮入りの日。

私は絹の衣を纏い、髪を結い上げ、薄紅の紅を引かれた顔で、王宮の広間へと足を踏み入れた。

その玉座には、蒼国の皇帝・蒼 光(そう・こう)陛下が静かに座しておられる。

「――林 蕾花。そなたを、私の妃として迎える。」

「はい。ありがとうございます。」

私の声は震えなかった。けれど、胸の奥はざわめいていた。

これは、ただの形式。
名を呼ばれ、礼を交わすだけの、妃としての通過儀礼にすぎない。

そう、陛下が深く心を寄せておられるのは、正妃にして従姉である蒼 霞(そう・か)様。

そのことは、後宮の誰もが知っている。

それなのに、なぜ私が――。

なぜ、林蕾花が、後宮に迎えられるのか。

理由など、わかりきっている。

妃の数は、すなわち権力の象徴。

陛下の本心など、関係ない。ただの数字として、私はここにいるのだ。

けれどそれでも。

一度、あの日、目が合った。

あの瞬間に芽生えてしまったこの恋心だけが、私を立たせていた。
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