花かげに咲く、ひとひらの恋
そして、私が後宮に入ったその日――

今日が、妃として迎えられた初夜となるはずだった。

宦官に身を清められ、寝衣に着替え、静かに灯された部屋で、私は陛下を待ち続けた。

けれど、時が過ぎても、扉が開くことはなかった。

私はふと立ち上がり、誰に止められるでもなく、夜の廊下をそっと歩き出した。

庭を抜け、月明かりに照らされた石畳の回廊を行く。

そして――

皇后陛下のお部屋の前を通りかかった、その時だった。

「……ああ……」

艶めかしい声が、夜の静けさを破って響いた。

思わず立ち止まり、襖の隙間から目にしたのは――

皇后・霞様を抱く、皇帝陛下の姿だった。

「……今日は、蕾花の初夜では?」

霞様の小さな声が聞こえる。

「分かっている……だが、そなたを放っておけん。」

陛下はそう言って、霞様の髪を撫でた。

私は、その場から音もなく背を向けた。
< 5 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop