花かげに咲く、ひとひらの恋
「……初夜か」

陛下が、ぽつりと呟く。

「霞以外の女と、初夜を交わすなんて……思いもしなかった」

胸が締めつけられた。

そんな言葉、誰にも言わないでほしかった。

でも――
陛下が、正直な人だということも、わかっていた。

だから私は、目を開けないまま、ただ微かに頷いた。

それでも私は、この方が、好きだった。

翌朝、目を覚ましたときには、皇帝陛下の姿は、すでになかった。

寝台の端が、わずかに温かかった。

けれどその温もりさえ、まるで儀礼の名残のようで――幻のようだった。

「夢だったのかもしれない。」

そう思ったのは、きっと私に、まだ陛下を想う心が残っているからだ。

恋をしてしまった私は、ほんのわずかな優しささえ、愛だと信じたくなる。

扉の外から、そっと気配がする。

入ってきたのは、私付きの宦官――春明(しゅんめい)。
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